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母性保護に重点!労働基準法第六条の二 妊産婦等

○労基法第六章の二 妊産婦等
労働基準法が制定・施行された当初(戦後)は、女性労働者については出産等の母性機能を持ち、また男性労働者に比べて体力的に劣るとの認識に基づき、年少者と同様の特別な保護を行うために「女子及び年少者」という章を設けて労働条件及び母性保護の両面において保護を図っていました。
しかし、女性の高学歴化や職場進出等の国内事情の変化、1975年の国際婦人年宣言や、女子差別撤廃条約の採択等、女性労働者に対して母性保護を除き特別な保護よりも男女平等を徹底すべきという国際的動きを背景として、労基法における女性保護規定の研究報告がなされ、女性保護規定の見直しや雇用分野における男女の平等法制定の必要性が提言されました。
このような保護か平等かが大きな争点となっていた状況の中で、①女性に対する特別な保護措置は、女性の能力発揮や職業選択の幅を狭める場合があり、母性保護は別として、本来廃止すべきものである。また、②労働時間をはじめとした労働条件など労働環境や女性が家庭責任を負っている状況を考慮し、かつ女性の就業と家庭生活との両立を可能とするための条件整備措置をとることが必要との基本的立場が示され、男女雇用機会均等法が成立、それに伴って労基法も改正、女性保護規定は一般女性への保護規制が大幅に緩和され、主に妊産婦への保護および女性の母性機能保護に関する規定となり、第六章の二の表題も「女性」から「妊産婦等」に変更となりました。
○保護規定
労基法第六章の二においては、先にも記載のとおり主に妊産婦の保護、また一部一般女性にも適用される保護を規定しています。その内容を以下に列挙します。
㈠抗内業務の就業制限
・保護対象:①妊娠中の女性(妊婦)*0、②出産後1年以内の女性(産婦)*1、③①②以外の満18歳以上の女性
*0:「妊娠中の女性については、坑内労働に就かせてはならないが、女性労働者が妊娠しているか否かについて事業主は早期に把握し、適切な対応を図ることが必要であり、そのため、事業場において女性労働者からの申出、診断書の提出等所要の手続きを定め、適切に運用されることが望ましいこと。」との通達があります。
*1:抗内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出ることが必要
・保護内容:①②の女性を抗内で行われるすべての業務に就かせてはならない。
      ③の女性を抗内で行われる業務のうち人力により行われる掘削の業務その他の女性に有害な業務として定められた業務*2に就かせてはならない。
※「坑内」とは、「労働基準法における抗とは鉱山についていえば一般に地下にある鉱物を試掘又は採掘する場所及び地表に出ることなしにこの場所に達するためにつくられる地下の通路をいう。当初から地表に貫通するためにつくられ、かつ、公道と同様程度の安全衛生が保障されており、かつ、抗内夫以外の者の通行が可能である地下の通路は労働基準法上の抗ではない。本来地下にある鉱物を試掘又は採掘する場所に達するためにつくられた地下の通路がたまたま地表に貫通しても、あるいは、地勢の関係上部分的に地表にあらわれても、これが公道と同様な程度の安全衛生を保障されるに至り、かつ坑内夫以外の者の通行が可能である通路に変化しない限り労働基準法上の抗である性質は変化しない。」と通達されています。そして、鉱山以外の建設中の隧道内部が抗に該当するかについての判断は、これに準じてすべきとされています。
*2:・人力により行われる土石、岩石若しくは鉱物(以下「鉱物等」という。)の掘削又は掘採の業務
    ・動力により行われる鉱物等の掘削又は掘採の業務(遠隔操作により行うものを除く。)
    ・発破による鉱物等の掘削又は掘採の業務
           ・ずり、資材等の運搬若しくは覆工のコンクリートの打設等鉱物等の掘削又は掘採の業務に付随して行われる業務(鉱物等の掘削又は掘採に係る計画の作成、工程管理、品                 質管理、安全管理、保安管理その他の技術上の管理の業務並びに鉱物等の掘削又は掘採の業務に従事する者及び鉱物等の掘削又は掘採の業務に付随して行われる業務に                  従事する者の技術上の指導監督の業務を除く。)

㈡危険有害業務の就業制限
・保護対象:①妊娠中の女性(妊婦)及び②出産後1年以内の女性(産婦)、③妊娠中の女性及び出産後1年以内の女性以外の女性(その他の女性)
・保護内容:①②③の女性について、・就かせても差支えない業務・女性が申し出た場合就かせてはならない業務・女性を就かせてはならない業務に区分して、女性則において        規定*3しています
*3:(別表1・2)参照
(別表1)重量物を取り扱う業務    
年齢 重量(単位 ㎏)
断続作業の場合 継続作業の場合
満16歳未満 12以上 8以上
満16歳以上満18歳未満 25以上 15以上
満18歳以上 30以上 20以上
 
(別表2)妊産婦等の就業制限の業務  
  女性労働基準規則第二条第一項の業務 ①妊婦 ②産婦 ③その他の女性
重量物を取り扱う業務 × × ×
ボイラーの取扱いの業務 ×
ボイラーの溶接の業務 ×
つり上げ荷重が五トン以上のクレーン若しくはデリツク又は制限荷重が五トン以上の揚貨装置の運転の業務 ×
運転中の原動機又は原動機から中間軸までの動力伝導装置の掃除、給油、検査、修理又はベルトの掛換えの業務 ×
クレーン、デリツク又は揚貨装置の玉掛けの業務(二人以上の者によつて行う玉掛けの業務における補助作業の業務を除く。) ×
動力により駆動される土木建築用機械又は船舶荷扱用機械の運転の業務 ×
直径が二十五センチメートル以上の丸のこ盤(横切用丸のこ盤及び自動送り装置を有する丸のこ盤を除く。)又はのこ車の直径が七十五センチメートル以上の帯のこ盤(自動送り装置を有する帯のこ盤を除く。)に木材を送給する業務 ×
操車場の構内における軌道車両の入換え、連結又は解放の業務 ×
蒸気又は圧縮空気により駆動されるプレス機械又は鍛造機械を用いて行う金属加工の業務 ×
十一 動力により駆動されるプレス機械、シヤー等を用いて行う厚さが八ミリメートル以上の鋼板加工の業務 ×
十二 岩石又は鉱物の破砕機又は粉砕機に材料を送給する業務 ×
十三 土砂が崩壊するおそれのある場所又は深さが五メートル以上の地穴における業務 ×
十四 高さが五メートル以上の場所で、墜落により労働者が危害を受けるおそれのあるところにおける業務 ×
十五 足場の組立て、解体又は変更の業務(地上又は床上における補助作業の業務を除く。) ×
十六 胸高直径が三十五センチメートル以上の立木の伐採の業務 ×
十七 機械集材装置、運材索道等を用いて行う木材の搬出の業務 ×
十八 次の各号(略・女性則第二条第一項第十八号参照)に掲げる有害物を発散する場所の区分に応じ、それぞれ当該場所において行われる当該各号に定める業務 × × ×
十九 多量の高熱物体を取り扱う業務 ×
二十 著しく暑熱な場所における業務 ×
二十一 多量の低温物体を取り扱う業務 ×
二十二 著しく寒冷な場所における業務 ×
二十三 異常気圧下における業務 ×
二十四 さく岩機、(ビヨウ)打機等身体に著しい振動を与える機械器具を用いて行う業務 × ×
  ○:女性を就かせても差支えない業務、△:女性が申し出た場合就かせてはならない業務、×:女性を就かせてはならない業務      

㈢産前産後
・保護対象:①6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性*4
      *4:使用者への請求が必要
      ②産後8週間を経過しない女性
・保護内容:①の女性について、女性から請求があった場合に、その者を就業させてはならない。(産前休業)女性が請求をしない場合には就業させることができる。
      ②の女性について、就業させてはならない。(産後休業)産後休業は女性からの請求の有無に関わらず、就業禁止です。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合に、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは可能です。

㈣軽易業務への転換
・保護対象:妊娠中の女性*5
*5:使用者への請求が必要
・保護内容:他の軽易な業務に転換させなければならない。
通達では、法は原則として女性が請求した業務に転換させる趣旨であるが、新たに軽
易な業務を創設して与える義務まで課したものではないとされています。

㈤妊産婦の労働時間
・保護対象:妊娠中の女性及び出産後1年以内の女性(妊産婦)*6
*6:使用者への請求が必要
・保護内容:①1か月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定型的変形労働時間制の適用がある場合でも、法定労働時間(8H/日・40H/週)を超
      えて労働させることはできない。
      ②災害その他避けることのできない事由により臨時の必要がある場合、公務のため臨時の必要がある場合及び時間外労働・休日労働に関する協定が締結されてい
       る場合であっても、時間外又は休日に労働させることはできない。
       ③深夜時間帯に労働させることはできない。
なお、時間外労働、休日労働又は深夜業に関して、「時間外労働若しくは休日労働についてのみの請求、深夜業についてのみの請求又はそれぞれについての部分的な請求も認められ、使用者はその請求された範囲で妊産婦をこれらに従事させなければ足りるものである。請求内容の変更があった場合にも同様である。」との通達が発出されています。
※妊産婦が労基法第四十一条の「労働時間に関する規定の適用除外」に該当する場合には、労働時間、休憩、休日に関する規定は適用されないが、深夜業に関する規定は適用されるため、①②は適用されないが、③は適用されることになります。

㈥育児時間
・保護対象:生後満1年に達しない生児を育てる女性*7
*7:使用者への請求が必要
・保護内容:労基法第三十四条に定められた休憩時間とは別に、1日に2回各々30分以上*8、その生児を育てる時間(育児時間)*9を与えなければならない。
*8:    「育児時間は、労働時間の始め、途中、終わりのいずれの時間に与えてもよい。育児時間を有給とするか否かは、当事者の自由であり無給でもよい。」
      との通達があります。これに関しては、法は育児時間の回数及び最低時間数を定めてはいますが、それがいつ与えられるかは定めていないため、基本的には当事
      者の合意によります。したがって、女性労働者が希望する場合、まとめて1日1時間の育児時間を与えることもできるとされています。
      「託児所の施設がある場合に往復時間も30分の育児時間に含まれると解する取扱いは違法ではないが、往復時間を除けば育児時間がかなり短くなるため、往復の
      所要時間を除き実質的な育児時間が与えられることが望ましい。」
      また、「1日の労働時間を8時間とする通常の勤務態様を予想し、その間に1日2回の育児時間の付与を義務づけるものであって、1日の労働時間が4時間以内である
      ような場合には、1日「1回」の育児時間の付与をもって足りる。」との通達が発出されています。
*9:生児への哺乳その他の世話のための時間

㈦生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置
・保護対象:生理日の就業が著しく困難な女性*10
*10:   生理日において下腹痛、腰痛、頭痛等の強度の苦痛により、就業の困難な女性をいう。
      使用者への請求が必要
・保護内容:生理日に就業させてはならない。*11
      「女性が現実に生理日の就業が著しく困難な状態にある場合に休暇の請求があったときはその者を就業させてはならないこととしたものであり、生理であること
      のみをもって休暇を請求することを認めたものではないことはいうまでもないこと。」と通達されていて、あくまでも「生理日の就業が著しく困難な女性に対す
      る措置」であることが強調されています。
なお、休暇中の賃金については、法においては支払いを義務づけてはいないことから、有給でも無給でも差支えありませんが、休暇日数に応じて就業規則その他により精皆勤手当を減額したり、特別手当金の算定の出勤率計算に当たって欠勤として扱うことについて「当該女性に著しい不利益を課すことは法の趣旨に照らし好ましくない。」と通達されていて、判例においても、女性への不利益取扱いが生理休暇の取得を困難としたり、権利の行使を抑制するような場合には、法の趣旨を失わせるものとして無効とされています。
*11:休暇の日数については、「生理期間、その間の苦痛の程度あるいは就労の難易は各人によって異なるものであり客観的な一般基準は定められない。したがって就業規則
   その他によりその日数を限定することは許されない。ただし、有給の日数を定めておくことはそれ以上休暇を与えることが明らかにされていれば差支えない。」との通
   達が発出されています。
      
生理日の就業が著しく困難かどうかについては、「生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならないが、その手続きを複雑にすると、制度の趣旨が抹殺されることになるから、原則として特別の証明がなくても女性労働者の請求があった場合には、これを与えることにし、特に証明を求める必要が認められる場合であっても、医師の診断書のような厳格な証明を求めることなく、一応事実を推断せしめるに足れば充分であるから、例えば同僚の証言程度の簡単な証明によらしめること。」との通達があります。
 
休暇の付与単位については、「休暇の請求は、就業が著しく困難である事実に基づき行われるものであることから、必ずしも暦日単位で行われなければならないものではなく、半日又は時間単位で請求した場合には、使用者はその範囲で就業させなければ足りるものである。」との通達が発出されています。
 
 
○罰則:第六十四条の二(抗内業務の就業制限)規定への違反については1年以下の懲役または50万円以下の罰金、第六十四条の三(危険有害業務の就業制限)
    第六十五条(産前産後)第六十六条(妊産婦等の労働時間等)第六十七条(育児時間)規定への違反については6か月以下の懲役または30万円以下の罰金、
    第六十八条(生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置)規定への違反については30万円以下の罰金が定められています。
2025年11月20日 11:29

出来高払制その他の請負制で使用する労働者の保障給

○出来高払制その他の請負制で使用する労働者への保障給
労働基準法においては、出来高払制を請負制の一種と位置づけ、その賃金の扱いについて規定しています。
請負制とは、一定の労働の成果又は出来高に対して賃率を定める賃金額決定方法のことをいいます。特に営業職やトラックドライバー、保険募集人など、労働者個人の力量のみで成果を算出でき、また成果が明確に見える職種でよく採用されています。この労働者が行った仕事の量に応じて賃金を支払う出来高払制の賃金は、①仕事の単位量に対する賃金を不当に低く定めて、労働者を過酷な重労働に追いやる。②一定量の仕事につき、その一部に不出来があった場合に、その全部を未完成として、これに対する賃金を支払わず、労働者の生活を困窮に陥れる。等多くの弊害が見られ、劣悪な労働条件の基盤を成すとされていました。
このことから労働基準法では、その第二十七条において、労働者の最低水準の生活を保障すべく、次のように規定しています。
第二十七条:(出来高払制の保障給)出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
この規定によって、使用者に労働時間に応じて一定額の賃金保障を行うことを義務づけているのです。
 
○労働時間に応じた保障
第二十七条においては、「労働時間に応じ」とあるとおり、使用者は労働時間に応じた保障をしなければなりません。したがって、一時間につきいくらと定める時間給であることを原則とし、労働者の労働時間の長短と無関係に一か月についていくらを保障するようなものは、第二十七条の保障給に則ったものではありません。ただし、月、週その他一定期間について保障給を定める場合であっても、この保障給について基準となる労働時間数(一般的には所定労働時間)が設定され、労働者の実労働時間数がこの基準を上回った場合には、上回った時間数に応じて増額されるようなものは、保障給に則したものとされます。なお、労働者の実労働時間数がこの基準となる労働時間数を下回った場合に、その下回った時間数に応じて減額されないものは、厳密には労働時間に応じているとはいえませんが、減額されないから保障給ではないと否定するのは妥当ではなく、増額措置がとられている限り、保障給とみて差支えないとされています。
以上、労働時間に応じた保障について記載しましたが、「労働者が就業しなかった」場合であっても保障をしなければならないのでしょうか。第二十七条は「労働時間に応じ」とあるとおり、労働者が就業することを前提とした規定ですので、労働者が就業しなかった場合、それが労働者の責によるものであるときは、使用者は賃金支払いの義務はないから、保障給についても当然に支払うことを要しません。通達においても「労働者が労働しなかった場合には本条の保障給の支払い義務はない。」とされています。
なお、「使用者の責に帰すべき事由」によって就業できなかった場合には、第二十六条の休業手当の規定が適用されますので、使用者に保障給の支払義務が生じるのは、労働者が就業したにもかかわらず、材料不足、停電、機械の故障等のため手待ち時間が多く、または、原料粗悪等のため出来高が減少し賃金が低下した場合のように、実収賃金が低下した場合が該当します。では、労働者の非効率が原因で実収賃金が低下した場合はどうなのでしょうか。通達に「本条は労働者の責にもとづかない事由によつて、実収賃金が低下することを防ぐ主旨であるから、労働者に対し、常に通常の実収賃金を余りへだたらない程度の収入が保障されるやうに保障給の額を定めるやうにすること。」とあることから、別見解も存在しますが、労働者自身の勤務態度、能力、作業の遅さ等、労働者の責めに帰すべき事由によって出来高が少なく、実収賃金が減少した場合には、使用者に保障給を支払う義務は生じないと思われます。ただし、労働者の責めに帰すべき事由の存在を客観的に立証することには、困難が伴うものと思われますので、短絡的に労働者の非効率として処理してしまうことには注意が必要です。
 
○一定の賃金
保障給の額については、条文には「労働時間に応じ一定の賃金」とあるだけで、または、通達において「常に通常の実収賃金と余りへだたらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定める」こととされています。
しかしこれは具体的規定ではありませんので、大体の目安として、労働者が就業している場合の規定である本条の保障給は、休業の場合に関して第二十六条が平均賃金の100分の60以上の休業手当の支払いを要求していることから休業手当を下回らないことが妥当であり、また、当然に最低賃金法の定める最低賃金以上でなければならないとされています。
なお、「本条の趣旨は全額請負給に対しての保障給のみならず一部請負給についても基本給を別として、その請負給について保障すべきものであるが、賃金構成からみて固定給の部分が賃金総額中の大半(概ね6割程度以上)を占めている場合には、本条のいわゆる「請負制で使用する」場合に該当しないと解される。」と通達されていることから、出来高給が月給等の固定給と併給されている場合であって、賃金総額のうち固定給の割合が大部分を占め、出来高給の割合が著しく少額(固定給主体+出来高給少額)である場合には請負制には該当しないとされていることから、保障給を定める必要はありません。
 
罰則
第二十七条の規定に違反して賃金の保障をしない使用者は、労働基準法第百二十条によって30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
「「保障をする」とは、現実に保障給を支払うという意味だけでなく、保障給を定めるという意味をも含むものと解されるから、保障給を定めないというだけでも本条違反が成立すると考えられる。ただし、本条はその定めの形式を問わないから、労働契約その他によって定められていればよく、就業規則に定めのないことが直ちに本条違反となるものではない。」とされています。
2025年10月22日 11:27

災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等

労働基準法第三十三条 災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等
労働基準法ではその三十三条(災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等)において、次のように規定しています。
第三十三条 災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第三十二条から前条まで若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。
② 前項ただし書の規定による届出があつた場合において、行政官庁がその労働時間の延長又は休日の労働を不適当と認めるときは、その後にその時間に相当する休憩又は休日を与えるべきことを、命ずることができる。
③ 公務のために臨時の必要がある場合においては、第一項の規定にかかわらず、官公署の事業(別表第一に掲げる事業を除く。)に従事する国家公務員及び地方公務員については、第三十二条から前条まで若しくは第四十条の労働時間を延長し、又は第三十五条の休日に労働させることができる。
この規定は、労基法第三十二条から第三十二条の五もしくは第四十条で定められた労働時間、又は第三十五条の休日の例外規定として、災害等の避けることができない事由が存する場合又は公務のため臨時の必要がある場合に、法定の労働時間を超えて、又は法定の休日に労働させることができることを規定したものです。
 
そもそも労働基準法は、原則として労働時間の限度を1日8時間、1週40時間(法定労働時間)と定め、その例外として各種の変形労働時間制を定めています。
また、毎週少なくとも1回、又は4週4日以上の休日(法定休日)を与えなければならないとしています。
そして、法定労働時間を超えて時間外労働させる場合や法定休日に労働させる場合には、36協定を締結し所轄労働基準監督署に届出しなければなりません。
また、36協定を締結し監督署に届出た場合であっても、時間外・休日労働の上限規制*1が法第三十六条に定められているため、その上限を超えることはできません。
*1:時間外・休日労働の上限規制
○原則としての限度時間
・月45時間
・年360時間
○臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合(特別条項)
・年720時間以内
・月100時間未満(休日労働を含む)
・複数月(2月、3月、4月、5月、6月)平均80時間以内(休日労働を含む)
・時間外労働が45時間を超える月が1年について6か月以内
上記のように労働基準法には、原則の法定労働時間・法定休日が定められていて、これを遵守しなければならず、これを超えて労働させる場合には36協定を締結していなければなりません。ただし法第三十三条により、災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合には、原則の法定労働時間を延長し、法定休日に労働させることができるのです。
この場合において、上記の時間外・休日労働の上限規制にかかわらず、時間外・休日労働をさせることも可能となります。
また、時間外労働・休日労働が行われた場合、使用者には割増賃金の支払義務が生じることになります。
 
「第一項」
<非常災害時の時間外・休日労働>
災害その他避けることのできない事由とは、災害をはじめ、事業の運営上通常予想し得ない突発的な、あるいは想定の範囲を超えた大規模又は重篤な事象で、通常必要と認められるような予防措置を講じていても避けられないような事象とされています。その上で臨時的な必要がある場合に限って、法第三十三条が適用できるものです。
臨時的な必要がある場合とは、災害その他避けることのできない事由であっても恒常的に時間外・休日労働が行われている場合には、要員の配置や勤務態勢の見直しなど人事労務管理上の措置や業務の見直し、効率化等の措置によって対応すべきものであって、人事労務管理、業務運営上の措置を講じたとしても時間外・休日労働をせざるを得ない場合が該当し、そのような場合に本条の適用が認められるものです。
当該第三十三条の適用には、事態急迫の判断が使用者による主観的判断によるものでなく、客観的に判断されることを要する観点から行政官庁の許可、又は事態急迫のため行政官庁の許可を受ける暇がない場合には、事後に遅滞なく届出ることを要件としています。
そのことから、「災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等に係る許可基準」によってその詳細が示されています。
「第1項は、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定であるからその臨時の必要の限度において厳格に運用すべきものであって、その許可又は事後の承認は、概ね次の基準によって取り扱うこと。
(1) 単なる業務の繁忙その他これに準ずる経営上の必要は認めないこと。
(2) 地震、津波、風水害、雪害、爆発、火災等の災害への対応(差し迫った恐れがある場合における事前の対応を含む。)、急病への対応その他の人命又は公益を保護するための必要は認めること。例えば、災害その他避けることのできない事由により被害を受けた電気、ガス、水道等のライフラインや安全な道路交通の早期復旧のための対応、大規模なリコール対応は含まれること。
(3) 事業の運営を不可能ならしめるような突発的な機械・設備の故障の修理、保安やシステム障害の復旧は認めるが、通常予見される部分的な修理、定期的な保安は認めないこと。例えば、サーバーへの攻撃によるシステムダウンへの対応は含まれること。
(4) 上記(2)及び(3)の基準については、他の事業場からの協力要請に応じる場合においても、人命又は公益の確保のために協力要請に応じる場合や協力要請に応じないことで事業運営が不可能となる場合には、認めること。」
また、当該許可基準について以下のような解釈が示されています。
「許可基準による許可の対象には、災害その他避けることのできない事由に 直接対応する場合に加えて、当該事由に対応するに当たり、必要不可欠に付随する業務を行う場合が含まれること。 具体的には、例えば、事業場の総務部門において、当該事由に対応する労働者の利用に供するための食事や寝具の準備をする場合や、当該事由の対応のために必要な事業場の体制の構築に対応する場合等が含まれること。」
「許可基準(2)の「雪害」については、道路交通の確保等人命又は公益を保護するために除雪作業を行う臨時の必要がある場合が該当すること。 具体的には、例えば、安全で円滑な道路交通の確保ができないことにより通常の社会生活の停滞を招くおそれがあり、国や地方公共団体等からの要請やあらかじめ定められた条件を満たした場合に除雪を行うこととした契約等に基づき除雪作業を行う場合や、人命への危険がある場合に住宅等の除雪を行う場合のほか、降雪により交通等の社会生活への重大な影響が予測される状況において、 予防的に対応する場合も含まれるものであること。」
「許可基準(2)の「ライフライン」には、電話回線やインターネット回線等の通信手段が含まれること。」
「許可基準に定めた事項はあくまでも例示であり、限定列挙ではなく、これら以外の事案についても「災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合」となることもあり得ること。例えば、新許可基準(4)において は、「他の事業場からの協力要請に応じる場合」について規定しているところであるが、これは、国や地方公共団体からの要請が含まれないことを意味するものではない。そのため、例えば、災害発生時において、国の依頼を受けて避難所避難者へ物資を緊急輸送する業務は対象となるものであること。」
「また、「ライフラインの復旧」とは、電気、ガス、水道等のライフラインの復旧工事現場での作業に限定されるものではなく、地質調査、測量及び建設コンサルタントの業務など、復旧の作業に伴う一連の業務を行う事業場についても33条許可等を行い得ること。」
なお、通達において「災害その他避けることのできない事由には、災害発生が客観的に予見される場合も含む」とされていますので、不確実とはいえそのような事由の発生が予想されるような場合も含まれるものと思われます。
第一項においては、労働させることができる時間外・休日労働について、「その必要の限度で」とされていますので、その時間は社会通念の範囲に限られるものであり、それを超えることは認められません。
 
「第二項」<休憩又は休日の付与命令>
第一項の時間外・休日労働をさせたとする使用者から事後の届出(許可申請の場合は客観的審査が行われる)を受けた行政官庁が当該時間外・休日労働を「不適当」と認めた場合、その時間に相当する休憩又は休日を与えるべきことを使用者に命ずることができます。当該命令は、労基法施行規則第十四条によって、様式第七号による文書で監督署長から発出されます。
「不適当」であるか否かは、第一項の要件を充たしているか否かの観点から判断され、「災害その他避けることのできない事由」がないのに時間外・休日労働をさせた場合は不適当と判断されるのは当然のこととして、そのような事由があっても、「必要の限度」を超えた場合も不適当と判断されます。
不適当と判断された場合の休憩・休日付与命令に関して、「第二項の命令については慎重に取扱い、延長が長時間にわたるものについてこれを発すること。」と通達されていますので、厳重な審査が行われると言えるでしょう。
 
「第三項」<公務のための時間外・休日労働>
第三項は、国及び地方公共団体の事業のうち労働基準法別表第一*2に掲げられる事業を除いた官公署の事業(現業でない官庁事務)に従事する国家公務員・地方公務員を適用対象としています。適用対象となる国家公務員・地方公務員については、一般に当該第三項の規定によって、時間外・休日労働をさせることができ、上記の36協定の締結も不要とされています。通達においてその旨が示されています。
また、「「公務のため臨時の必要がある」か否かについての認定は、一応使用者たる当該行政官庁に委ねられており、広く公務のための臨時の必要を含むものである。」と通達されており、「第一項の規定にかかわらず」とあるとおり「災害その他避けることのできない事由」の有無を問われていませんし、行政官庁の許可又はこれに対する事後の届出についても求められていません。使用者たる行政官庁の判断は重要であると言えるでしょう。
なお、第三項には「その必要の限度において」の文言が含まれていませんが、臨時の必要があるとしてもその限度を超えて時間外・休日労働を命ずることができるということではないと解するべきとされています。
*2労働基準法別表第1
一 物の製造、改造、加工、修理、洗浄、選別、包装、装飾、仕上げ、販売のためにする仕立て、破壊若しくは解体又は材料の変造の事業(電気、ガス又は各種動力の発生、変更若しくは伝導の事業及び水道の事業を含む。)
二 鉱業、石切り業その他土石又は鉱物採取の事業
三 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
四 道路、鉄道、軌道、索道、船舶又は航空機による旅客又は貨物の運送の事業
五 ドック、船舶、岸壁、波止場、停車場又は倉庫における貨物の取扱いの事業
六 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
七 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業
八 物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
九 金融、保険、媒介、周旋、集金、案内又は広告の事業
十 映画の製作又は映写、演劇その他興行の事業
十一 郵便、信書便又は電気通信の事業
十二 教育、研究又は調査の事業
十三 病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
十四 旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業
十五 焼却、清掃又はと畜場の事業
2025年10月14日 13:47

労働者には大切な権利です!年次有給休暇の基礎知識

○労働基準法第三十九条 年次有給休暇について
労働契約上「休日」は労働義務がない日を意味するものであるのに対して、「休暇」は本来であれば労働者に労働義務があるものの、使用者によってその義務が免除された日のことをいいます。このことから、休日は無給である一方、休暇は労使間の取り決めによって有給か、無給かが区別されます。
年次有給休暇は、その名のとおり毎年一定日数与えられる「賃金を得ながら休む」ことができる労働基準法第三十九条に規定されている労働者の権利です。
労働基準法第三十九条においては、年次有給休暇は労働者にとって重要な事項である故に第一項から第十項に亘って詳細な規定が定められています、各項の内容について以下に記載します。
・第一項:入社後六ヶ月間継続勤務した労働者への有給休暇付与義務と付与日数(十労働日)の定め
また、継続勤務した期間を六ヶ月経過日から一年ごとに区分した各期間の初日の前日の属する期間において出勤した日数が全労働日の八割未満である労働者には有給休暇を与えなくてよい(八割以上出勤要件)ことの定め
・第二項:入社後一年六ヶ月以上(入社日から起算して六ヶ月を超えて継続勤務する日から起算した継続勤務年数一年ごと)継続勤務した労働者への有給休暇付与義務と付与日数(下表①)の定め
また、八割以上出勤要件の定め
①通常の労働者の付与日数                                                                             
勤続年数 一年六ヶ月 二年六ヶ月 三年六ヶ月 四年六ヶ月 五年六ヶ月 六年六ヶ月(最大)
付与日数 11労働日 12労働日 14労働日 16労働日 18労働日 20労働日
 
・第三項:所定労働日数が少ないパート労働者等*1への有給休暇付与義務と付与日数(下表②)の定め(有給休暇の比例付与)
*1一週間の所定労働日数が4日以下および週以外の期間によって所定労働日数が定められていて一年間の所定労働日数が216日以下の労働者であって、一週間の所定労働時間が30時間以上の者を除く
                   ②週所定労働日数が4日以下かつ週所定労働時間が30時間未満の労働者の付与日数
雇い入れの日から起算した継続勤務期間
週所定労働日数 一年間の所定労働日数※ 六ヶ月 一年六ヶ月 二年六ヶ月 三年六ヶ月 四年六ヶ月 五年六ヶ月 六年六ヶ月
4日 169日~216日 7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121日~168日 5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73日~120日 3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48日~72日 1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日
                  ※週以外の期間によって労働日数が定められている場合
・第四項:有給休暇を時間単位で与えることができる「時間単位有休制度」についての定め
年次有給休暇の取得は、日単位での取得が原則ですが、平成20年の改正で仕事と生活の調和を図る観点から、有給休暇を有効に活用できるようにするために、労使協定により5日の範囲内で時間を単位として与えることができることとされています。
・第五項:労働者からの時季指定による有給休暇の取得と使用者の時季変更権についての定め
労働者の年次有給休暇の権利は、一定期間の継続勤務と八割以上出勤の要件を充たすことによって、法律上当然に生ずるとする年次有給休暇権と、労働者が時季指定をしたときは、年次有給休暇が成立し当該労働日における労働義務が消滅するとする時季指定権で構成されると最高裁判決で示されています。
これに対して使用者には、労働者から指定される時季に休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には、他の時季に変更することができるとする時季変更権が認められています。
・第六項:労使協定によって有給休暇の取得時季を特定する有給休暇の計画的付与についての定め
年次有給休暇の時季を特定する方法として、昭和62年の改正で第五項の労働者による時季指定の方法に加えて計画的付与制度が規定されました。
・第七項:使用者の時季指定によって有給休暇の取得時季を特定する使用者の時季指定による付与についての定め
年次有給休暇の時季を特定する方法として、平成30年の改正で第五項の労働者の時季指定の方法、第六項の計画的付与による方法に加えて使用者による時季指定による付与が規定されました。条文では「使用者は、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない」とされていますので、この方法で有給休暇を与えることは使用者の義務とされています。
・第八項:第七項の使用者による時季指定の方法で有給休暇を付与する義務とされる日数から第五項と第六項の方法で与えた日数を控除できることについての定め
第七項の使用者の時季指定による有給休暇の付与は、年10労働日以上の有給が支給される労働者について5日を指定することが義務とされていますが、第五項の労働者が自身で請求した日数と第六項の計画的付与日数については義務の5日から控除することができるため、その日数分義務日数が減少します。
・第九項:有給休暇取得日について使用者が支払いを義務付けられる賃金額の算定についての定め
年次有給休暇を取得した際に支払うべき賃金として、①平均賃金②所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金③健康保険法による標準報酬月額の三十分の一に相当する金額(労使協定締結要)の三種類を定めています。
・第十項:八割以上出勤要件の算定に際しての方法についての定め
業務上の傷病により療養のため休業した期間、育児・介護休業法に規定する育児休業又は介護休業をした期間及び産前産後のため休業した期間については、本来欠勤ですが、出勤率の算定に当たっては、出勤したものとみなすこととし、労働者の故意過失によらない長期休業について有給休暇付与に当たり不利とならないようにしています。
・労働基準法第百三十六条:「使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。」
年次有給休暇を取得したことを理由として、賃金の減額、精皆勤手当や賞与の算定に際して有給休暇日を欠勤又は欠勤に準じて取り扱うことのほか、有給休暇の取得を抑制するようなすべての不利益な取扱いは法の趣旨を損なうことに繋がるため、「不利益な取扱いをしないようにしなければならない」と法条文において明確にしています。
 
○年次有給休暇の時季を特定する方法
労働基準法第三十九条においては、年次有給休暇の時季を特定する方法として、①労働者の請求する時季に与える方法、②労使協定で有給休暇を与える時季を定める方法(計画的付与)、③使用者の時季指定による方法の3通りの方法を定めています。法制定当初は①の方法のみが定められ原則的方法でしたが、昭和62年改正で②の方法、平成30年改正で③の方法が追加されました。
 
①労働者の請求する時季に与える方法
労働基準法第三十九条第五項に規定されている有給休暇の時季を特定する方法です。法制定当初より採用されている原則的方法であり、時季指定権と呼ばれ、休暇の時季選択を労働者に与えているものです。労働者が具体的な時季を指定した場合には、同第五項に規定されている使用者による時季変更権が行使される場合のほかは当然に有給休暇が成立することになります。
この労働者の時季指定権に対して使用者に認められている権利が時季変更権です。時季変更権とは、労働者から指定された時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合には、他の時季に休暇を変更できる権利ですが、事業の正常な運営を妨げる場合にのみ行使できるものです。事業の正常な運営を妨げるか否かについて、裁判例は「当該労働者の所属する事業場を基準として、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断すべき」としていますし、最高裁においても「使用者に対し、できる限り労働者が指定した時季に休暇を取ることができるように、状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができ、そのような配慮をせずに時季変更権を行使することは、法の趣旨に反する。その配慮をしなかったとするならば、そのことは、時季変更権行使の要件の存否の判断にあたって考慮されなければならない。」としていますので、時季変更権の行使の際には企業は最大限の配慮をしなければならず、その行使は労働者の時季指定権の行使と比較すると容易ではないことが伺われます。

②労使協定で有給休暇を与える時季を定める方法(計画的付与)
労働基準法第三十九条第六項に規定されている労使協定で有給休暇の時季を定める方法です。昭和62年の法改正で追加された方法であり、計画的付与と呼ばれています。
計画的付与は、各労働者が保有する有給休暇日数のうち5日を超える部分についてのみ行うことができるものであり、その付与方式として、・事業場全体の休業による一斉付与方式、・班別の交替制付与方式、・年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式があり、業種や組織形態・業務内容等により様々な適用が考えられます。
なお、計画的に付与される年次有給休暇は、労使協定で定めるところによって付与されることとなり、この年休については労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権ともに行使できないと通達されています。また後述しますが、計画的付与として時間単位年休を与えることは認められません。
 
③使用者の時季指定による方法
労働基準法第三十九条第七項に規定されている年10日以上の年休が付与されている労働者に対して使用者が5日について労働者ごとに時季を指定して取得させる方法です。法条文では「使用者は、五日については、基準日(継続勤務した期間を六ヶ月経過日から一年ごとに区分した各期間)から一年以内の期間に、労働者ごとにその時期を定めることにより与えなければならない。」と規定されていることから、年休を確実に取得させることが義務とされています。平成30年の法改正で追加された有給の付与方法です。
この使用者が有給を取得させる義務となる五日について、法第三十九条第八項において、第五項の労働者の時季指定によって取得した日数と第六項の計画的付与によって取得した日数は五日の内数とされ、使用者が時季を指定することによって取得させる必要はないと規定されています。
使用者が時季を定めることによって有給を与えるに当たっては、労働基準法施行規則によって、「あらかじめ、法第七項の規定により当該有給休暇を与えることを明らかにした上で、その時季について当該労働者の意見を聴かなければならない。使用者は、聴取した意見を尊重するよう努めなければならない。」とされています。
このことから、使用者が時季を定める時期については、必ずしも一年間の期首に限られず、当該期間の途中に行うことも可能です。
したがって、一年間の期首に労働者の意見を聴いた上で五日の有給休暇の時季を指定(期首指定)し、労働者が指定に則って取得した場合には問題ないものとし、基準日から一定期間が経過したタイミング(三ヶ月ごとや半年後等)で有給休暇の請求・取得日数が五日未満となっている労働者に対して、使用者が時季指定を行う(途中調整)等の運用を行い義務を果たす必要があります。当該第七項違反には30万円以下の罰金が科される可能性がありますので、適切に運用することが必要です。
なお、「労働者の意見を聴いた際に半日単位の有給休暇の取得の希望があった場合においては、時季指定を半日単位で行うことは差支えない。この場合において、半日の年次有給休暇の日数は0.5日として取り扱うこと。また、時季指定を時間単位年休で行うことは認められない。」との通達がありますので、時季指定に関して半休は適用できますが、時間単位年休は適用できません。
 
④その他 時間単位有給休暇
その他、平成20年の改正で労使協定によって、時間を単位として有給休暇を与えることができることとされています。この時間単位有給休暇については、法第四項において「労働者が有給休暇を時間を単位として請求したときは・・・時間を単位として有給休暇を与えることができる。」とあるとおり、「労働者の請求する時季に与える方法」の一つであって、別個の時季特定の方法というわけではなく、日単位での取得が原則である有給休暇の取得単位の例外を規定しているものです。
また「時間単位年休についても、使用者の時季変更権の対象となるものであるが、労働者が時間単位による取得を請求した場合に日単位に変更することや、日単位による取得を請求した場合に時間単位に変更することは、時季変更には当たらず、認められない。
さらに前述の計画付与として時間単位年休を与えることは認められない。」と通達されています。(時間単位年休は労働者が時間単位による取得を請求した場合に与えることができるものである)
なお、取得単位の観点から、既に多くの企業で取り入れられている「半日単位有給休暇(半休)」については、法律上明確な規定はなく、採用するか否かは企業の任意とされています。通達においても「年次有給休暇は、一労働日を単位とするものであるから、使用者は労働者に半日単位で付与する義務はない。」とされていて、半休の取得を認めないことは構いませんが、認めてはならないということではありません。
 
その他、知っておきたいこと
○年次有給休暇の繰越と時効
年次有給休暇は、法第百十五条の規定により2年の消滅時効が認められる。と通達されていますので、当年度に取得されなかった有給休暇は次年度に繰越されます。この繰越しをした場合において、翌年度に休暇を付与するときに与えられる休暇が前年度のものか当年度のものかについては、当事者の合意によるが、労働者の時季指定権行使は繰越し分からなされていくとすべきとの説が一般的です。

○年次有給休暇の買い上げ
年次有給休暇は、取得することで所定労働日の労働義務を消滅させ、労働者の心身の疲労を回復させ、また、仕事と生活の調和の実現に資するという本来の目的に寄与することができるのであって、所定労働日に休業しない場合に金銭を支給することでは有給休暇を与えたことにはなりません。通達においても「年次有給休暇の買上げの予約をし、これに基づいて法第三十九条の規定により請求し得る年次有給休館日数を減じないし請求された日数を与えないことは、法第三十九条違反である。」とされています。
ただし、法定日数を超えて付与される部分の有給休暇を買い上げる場合のほか、退職、時効等の理由で消滅するような場合に、残日数に応じて金銭の給付をすることは違法ではありません。
しかし、有給休暇の取得を抑制することになりかねないため、有給休暇を取得しやすい環境を整備することが好ましいといえるでしょう。

○年次有給休暇の取得理由を聞くことについて
有給休暇は労働者の心身の疲労を回復させるために取得するものですが、休暇の利用目的が休養のためでないという理由で使用者が拒否することは認められません。法律は有給休暇をどのような目的で利用するかについて関知していないのです。最高裁判決においても「年次有給休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨である。」としています。
つまり、労働者が年次有給休暇をいかなる目的に利用するかはその自由に委ねられ、使用者もその利用目的によって、有給休暇の付与を左右し得ないものであって、使用者から取得理由を聞かれたとしても労働者に理由を申出る必要はありません。
ただし、取得理由を聞くこと自体がただちに違法となるわけではなく、複数の労働者からの休暇の申出が同じ日にあったケース等で、時季変更権を行使する必要がある場合のように業務上の必要性が認められる場合には、取得理由を確認することは可能です。
労働者が理由を答えないことで取得を妨げたり、理由いかんによって付与を制限したりすることは違法となりますので、注意しなければなりません。
 
2025年10月01日 14:04

労働時間・休憩・休日の適用除外とは?

労働基準法第四十一条の「労働時間に関する規定の適用除外」とは?
労働基準法は、使用者との間に雇用契約を結んだ労働者全てに適用される法律です。この法律は、労働時間、休日、休憩時間等様々な事項に関して規制を行うことで、労働者の保護を図っています。
しかしその反面で、第四十一条において条件に該当する労働者については「労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しない。」として規制の適用を除外しています。
第四十一条:この章(第四章)、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
 別表第一第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
 監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
したがって、上記に該当する労働者には法定労働時間を超えて労働させ、または法定休日に労働させて残業代を支払わないこと、休憩を与えないこと等で違法を問われることがなくなります。
条文によると、適用除外となるのは、あくまでもこの章(第四章)、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定です。その他の規定が除外されるものではありません。
ただし、第四十一条によっても深夜業に関する規定及び年次有給休暇に関する規定は適用除外にはなりませんので、注意が必要です。
つまり、対象となる労働者が深夜時間帯に勤務した場合には深夜労働の割増賃金を支払わなければなりませんし、年次有給休暇取得の請求があった場合には有給休暇を与えなければなりません。
 
「次の各号の一に該当する労働者」
○別表第一第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
第6号:土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農(林)の事業
第7号:動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他の畜産、養蚕又は水産の事業
農(林業は除く)畜水産・養蚕の事業に従事する労働者が該当しますが、これはこの種の事業はその性質上天候等の自然的条件に左右されるため、労働時間や休日の規制に馴染まないものとして適用除外とされています。
○事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
「監督若しくは管理の地位にある者」とは、「一般的には局長、部長、工場長等労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場に在る者の意であるが、名称にとらわれず出社退社等について厳格な制限を受けない者について実体的に判断すべきものである。」と通達されていて、いわゆる一般に言う「管理監督者」について適用除外とされています。管理監督者については、労働時間、休憩及び休日に関する規定の制限を超えて活動しなければならない企業経営上の必要から適用除外が認められています。
しかし、原則として、よく問題にされるポイントですが、企業が人事管理上あるいは営業政策上の必要等から任命する職制上の役付者であればすべてが管理監督者として適用除外が認められるものではありません。
「機密の事務を取り扱う者」とは、必ずしも秘密書類を取り扱う者を意味するのではなく、「秘書その他の職務が経営者又は監督若しくは管理の地位に在る者の活動と一体不可分であって、出社退社等についての厳格な制限を受けない者である。」と通達されていて、厳格な労働時間管理になじまない者として適用除外とされています。
 
○監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの
監視又は断続的労働に従事する者については、通常の労働者と比較して労働密度が疎であり、労働時間、休憩、休日の規定を適用しなくても必ずしも労働者保護に欠けるところがないことから適用除外が認められています。ただし、監視断続的労働はその態様が様々であることから無条件に適用除外とすることは労働条件に著しい影響を及ぼす可能性が考えられるので、適用除外とするためには行政官庁の許可が必要とされています。
通達においては、「監視に従事する者は原則として一定部署に在って監視するのを本来の業務とし常態として身体又は精神緊張の少ないものの意であり、その許可は概ね次の基準によって取り扱うこと。」
  • 火の番、門番、守衛、水路番、メーター監視等の如きものは許可すること。
  • 犯罪人の看視、交通関係の監視等精神緊張の著しく高いものは許可しないこと。
  • プラント等における計器類を常態として監視する業務は許可しないこと。
  • 危険又は有害な場所における業務は許可しないこと。
とされています。
また、断続的労働とは、作業自体が本来間欠的に行われるもので、したがって、作業時間が長く継続することなく中断し、しばらくして再び同じような態様の作業が行われ、また中断するというように繰り返されるものをいいます。
通達では、「断続的労働に従事する者とは、休憩時間は少ないが手待時間が多い者の意であり、その許可は概ね次の基準によって取り扱うこと。
  • 修繕係等通常は業務閑散であるが、事故発生に備えて待機するものは許可すること。
  • 貨物の積卸に従事する者寄宿舎の賄人等については、その者の勤務時間を基礎として作業時間と手待時間折半の程度まで許可すること。実労働時間の合計が八時間を超えるときは許可すべき限りではない。
  • 鉄道踏切番については、一日交通量十往復程度まで許可すること。
  • 汽罐夫その他特に危険な業務に従事する者については許可しないこと。
とされています。
以上、労働時間、休日、休憩の規定が適用除外される労働者として、事業の種類、労働者の地位、労働の態様が法定労働時間や週休制を適用するのに適さないものとして1号から3号の3種が対象とされています。
適用除外に関する留意点
○労基法上の管理監督者に該当するか
会社内で管理職とされている労働者であっても、それが直ちに労基法上の「管理監督者」に該当するとは言えません。この点が最も大きな留意点です。
管理監督者は労基法の労働時間、休憩、休日の規制の適用を受けないため、時間外労働、休日労働に対する手当(残業手当や休日出勤手当)の支払いが不要になりますので、実際に当該手当を支払っていない場合に、その実態から管理監督者に該当しないと判断され管理監督者性が否定されたときには、賃金の未払い問題が発生します。その場合過去に遡っての賃金を一度に請求され、また複数人からの請求があった場合には×複数倍の賃金を請求されるおそれがありますので、大きなトラブルに発展します。
そのようなトラブルを避けるためには、管理監督者に該当する労働者の範囲を管理監督者に該当するか否かの判断基準に則って適正に判断しなければなりません。
では、その判断基準とはどのようなものなのでしょうか。行政実務上また裁判例上もその判断にあたり、対象労働者の管理監督者性について、①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮監督権限が認められていること(職務内容・責任及び権限の程度)②実際の勤務態様における自己の労働時間に関する裁量権があること③一般の従業員よりも高いその地位と権限にふさわしい賃金等の待遇を与えられていることの3つの要素を総合的に勘案して判断しています。
したがって、労働者を管理監督者として労働時間等の適用を除外するにあたっては、部長や課長だからというだけで安易に判断するのではなく、上記判断基準に則っているかについてしっかりと検討し適正に運用することが重要です。
○監視又は断続的労働に従事するものに関して行政官庁の許可を受けているか
労働基準法第四十一条第三号では、行政官庁の許可を受けたものが適用除外とされていますので、監視又は断続的労働という労働の態様のみを以て適用除外は認められません。
行政官庁の許可を受けるという要件を満たしていないため、適用除外の効果は発生しません。必ず行政官庁の許可を受けることが必要です。
○安全衛生法上の労働時間の状況の把握義務
労働安全衛生法はその第六十六条の八の三において、「事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。」と規定していますので、事業者は労基法第四十一条の適用除外の対象となる労働者の労働時間についても把握する義務があります。条文に規定されている「厚生労働省令で定める方法」*1によって労働時間を把握しなければなりません。
*1:労働安全衛生規則第五十二条の七の三 法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。
○労働者の安全への配慮
労働契約法第五条には、「労働者の安全への配慮として、使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定されています。
この安全配慮義務は労働契約締結に伴って信義則上当然に企業が負うことになる義務で、労働者の生命・身体の安全や心身の健康が阻害されることがないように配慮する義務のことです。労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められています。
労働基準法第四十一条によって労働時間、休憩、休日の規定が適用除外されているからといって、働かせすぎは禁物です。労働者の安全への配慮を怠った場合には、損害賠償請求をされる可能性があります。
2025年09月12日 15:33

労働基準法における休業手当とは?

休業手当とは?
「休業」とは労働者が労働契約に従って労働の用意をし、かつ労働の意思をもっているにもかかわらず、その給付の実現が拒否され、又は不可能となった場合をいい、事業の全部又は一部が停止される場合にとどまらず、特定の労働者に対して、その意思に反して、就業を拒否するような場合も含まれます。なお、休業は全一日の休業であることは必要でなく、一日の一部を休業した場合も含むとされています。
そのような休業に対して支払われる労働基準法に規定される休業手当とはどのようなものなのでしょうか。
労働基準法はその第二十六条で、「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」と規定しています。
これが休業手当ということになるのですが、条文にあるとおり「使用者の責めに帰すべき事由」による休業が支給の要件であって、労働者自身の都合(私傷病等)による休業*1に対しては支給されません。
したがって、休業手当とは、会社都合によって労働者を休業させ又は労働の提供ができなくなった場合の収入の減少を保障するために労基法が会社に支払いを義務づけた賃金のことをいいます。
*1:業務上の傷病による休業に対して支払われる「休業補償」とは異なる制度です。

休業手当が支払われる要件
以上を総合すると、休業手当が支払われる要件として以下の三つが挙げられます。
①使用者の責めに帰すべき事由による休業であること
会社の業績悪化や急な設備故障等、業務を行うことができなくなった理由が会社側にあり、労働者の都合によるものではない、いわゆる会社都合による休業であることが必要です。
②労働者本人に労働の意思と能力があること
休業とは、労働者が労働の用意をし、労働の意思をもっているにもかかわらず業務を行えなくなった状態が前提ですので、労働者の私傷病による場合や個人的理由によるものの場合には、労働の意思と能力があるとはいえないため、休業手当は発生しません。
③休業日が休日ではないこと
休業とは、労働契約上労働義務のある日に労働ができなくなることですので、休業手当が発生するのは労働義務のある日に限られます。会社が就業規則等で休日と定めた土日祝日等は元々労働義務のない日であるため、休業手当は発生しません。
通達においても「労働協約、就業規則又は労働契約により休日と定められている日については、休業手当を支給する義務は生じない。」とされています。
 
「使用者の責めに帰すべき事由」の意義
休業手当が支給される要件は、上記のとおり①~③があります。その判断において、②③は容易なのですが、①に関するその判断は難解です。
休業手当が支払われる要件である「使用者の責に帰すべき事由」とは、学説や裁判例によると、不可抗力によるものは含まれないが、使用者の故意、過失又は信義則上これと同視すべきものよりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当であるとされています。また、経営者として不可抗力を主張し得ない一切の場合を包含するものとの表現もあります。
不可抗力とは,①事業の外部より発生した事故であること,②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてなお避けることのできない事故であること,の二つの要件を備えたものをいいますが、総合的に判断すると不可抗力によるものの他は、使用者の責に帰すべき事由に属するものということになるでしょう。 

休業手当が支給されるケース・支給されないケース
このように「使用者の責めに帰すべき事由」の判断は難しいものですので、参考に休業手当が支給されるケースと支給されないケースの具体例を列挙します。
○休業手当が支給されるケース
 ① 生産調整のために一時休業する場合
 ② 機器の故障による操業停止や検査のために休業する場合
     ③ 「親会社からのみ資材資金の供給を受けている下請け工場が、親会社自体が 経営難のため資材資金獲得に支障をきたし、休業した場合は、使用者の責に帰すべき休
   業に該当する」通達より抜粋
  ④一時帰休させる場合
     ⑤労働組合が争議行為をしたことにより、同一事業場の当該労働組合員以外の労働者の一部が労働を提供し得なくなった場合に、(その程度に応じて労働者を休業させる
  ことは差支えないが)、その限度を超えて休業させた場合には、その部分については、使用者の責に帰すべき事由による休業に該当する。」通達より抜粋
  ⑥解雇予告期間中、自宅待機等を命じて休業させる場合 

○休業手当が支給されないケース
 ①天災事変によって休業する場合
 ②「労働者側の争議行為に対抗する使用者側の争議行為としての作業所閉鎖は、これが社会通念上正当と判断される限り、その結果労働者が休業のやむなきに至っても、
          休業手当支払義務はない。」通達より抜粋
    ③「労働組合が争議行為をしたことにより、同一事業場の当該労働組合員以外の労働者の一部が労働を提供し得なくなった場合に、その程度に応じて労働者を休業させる
         ことは差支えない(が、その限度を超えて休業させた場合には、その部分については、使用者の責に帰すべき事由による休業に該当する。)」通達より抜粋
 ④「労働安全衛生法第66条の規定による健康診断の結果に基づいて使用者が労働時間を短縮させて労働させたときは、使用者は労働の提供のなかった限度において賃金を
   支払わなくても差支えない。(但し、使用者が健康診断の結果を無視して労働時間を不当に短縮もしくは休業させた場合には、法第26条の休業手当を支払わなければ
   ならない場合の生ずることもある。)」通達より抜粋

休業手当の計算方法(具体例)
 以下の場合を例に休業手当の計算を行います。
Ex)賃金締め支払:末締め翌月20日支払い、休業期間:4/10~4/30、
休業期間中の所定労働日数:14日間
  給与:
 
 期  間 総 日 数 支 給 日 支給総額
       
1/1~1/31 31 2/20 240,000
2/1~2/28 28 3/20 230,000
3/1~3/31 31 4/20 210,000
 合  計 90 - 680,000
 
休業手当の金額は、条文によると「平均賃金の百分の六十以上の手当」とされていますので、まず平均賃金を算出する必要があります。
 ○平均賃金=休業期間初日の直前3か月間の賃金の総額(総支給額)÷直前の3か月間の総日数(総日数)で算出します。(詳細は別記事)
680,000÷90日=7555.55555≓7555.55(銭未満切捨て)
 
次に平均賃金を基礎に休業手当金額を算出します。
○休業手当=平均賃金×60%×休業日数(14日間)で算出します。
  1. 55×60%×14=63466.62≓63,467円以上(円未満四捨五入)
 
例の場合には、14日間の休業に対して、63,467円以上の休業手当を支払わなければならないということになります。
2025年09月03日 17:41

労働基準法における減給の「制裁規定の制限」について

○減給の制裁
減給の制裁とは、職場規律に違反した労働者に対する制裁として、本来労働者が受ける賃金を減額する措置のことです。労働基準法においては「労働者に対して減給の制裁を定める場合においては」と「制裁」という語句を使用していますが、一般的には「懲戒」という語句が使用されていて、なじみがあるのではないかと思います。
これに関しては、「懲戒」と「制裁」は同義である旨通達されていますので、同義に扱うことでよいでしょう。
それでは「懲戒」とは何かというと、使用者が企業秩序を維持し、企業の円滑な運営を図るために行うもので、従業員の企業秩序違反に対する制裁罰としての労働関係上の不利益措置のことを懲戒処分といいます。使用者が懲戒処分を行うには、就業規則に懲戒の種類、程度及び事由を定め、労働者に周知しておかなければなりません。
懲戒処分には一般的には以下のような種類があります。

 1.戒告:始末書の提出を求めず注意を言い渡すこと
 2.譴責:始末書を取り注意を言い渡すこと
 3.減給:労働者が受ける賃金を減額すること
 4.出勤停止:一定期間出社させず就労を禁止し、賃金の支払いを行わないこと
 5.降格(降職):役職、職位、資格等級を引き下げること
 6.諭旨解雇:本来は懲戒解雇に該当するものの、情状が認められる場合に一定期間内に退職届を提出することを勧告し、提出があれば退職とし、期間内に退職届が提出され
       ない場合は懲戒解雇とすること
 7.懲戒解雇:制裁罰として解雇すること。一般的に退職金が不支給とされ、再就職活動にも不利益がある
このように懲戒にはいくつかの種類があるのですが、労働基準法が規制しているのは解雇に関することを除くと、第九十一条の「(減給の)制裁規定の制限」です。
 
解雇や減給以外の懲戒に関しては、使用者は人事考課や人事異動において大きな裁量を有しているとされていますので個別の規制は定められていませんが、解雇や減給については、労働者の生活を脅かすことに直結することから、個別に規定を定めていると言えます。実際に「就業規則に定める制裁は減給に限定されるものでなく、その他譴責出勤停止即時解雇等も制裁の原因たる事案が公序良俗に反しない限り禁止する趣旨ではない」と通達されていて、懲戒は減給に限らず数種類あるので使用者において適正な範疇で行うことを促しています。
特に減給に関する制裁規定の制限については、労働の結果いったん発生した賃金債権を減額するものであることから、その額があまりに多額であると労働者の生活を著しく脅かす要因になるおそれがあるため、それを防止するという趣旨で次のように規定されています。

(制裁規定の制限)
第91条 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、①一回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、②総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
①一回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない
「一回の事案に対しては、減給の総額が平均賃金の1日分の半分以内でなければならないという意味である。」と通達されていて、一回の事案について平均賃金の1日分の半額ずつ何日にもわたって減給してよいという意味ではありません。

②総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない
「一賃金支払期に発生した数事案に対する減給の総額が、当該賃金支払期における賃金総額の10分の1以内でなければならないという意味である。」との通達があり、もしこれを超えて減給の制裁を行う必要が生じた場合には、その部分の減給は、次期の賃金支払期に延ばさなければなりません。また「一賃金支払期における賃金総額が欠勤、遅刻等により減額されたため僅少となった場合であっても、僅少となった現実に支払われる賃金の総額の10分の1を超えてはならない」との通達があり、僅少となった賃金総額を基礎として10分の1を計算しなければなりません。

○制裁規定の制限に拘束されないで減給が行われるケース
1.労働者との合意に基づく減給
 労働契約法第八条は「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」と規定し、労働条件は契約締結の当事者である労
 使の合意によって変更できると定めています。
 労使の合意に基づく減給の場合、懲戒処分による減給ではないことから、制裁規定の制限が適用されません。

2.降格による減給
降格には、「人事考課によるもの」と「懲戒処分によるもの」があり、前者に伴う減給は制裁規定の制限は適用されませんが、後者に該当する減給については、適用されることになります。
前者について通達は、「交通事故を起こした自動車運転手を助手に降格し、賃金を助手のそれに低下せしめるとしても、交通事故を起こしたことが運転手として不適格であるから助手に格下げするものであるならば、賃金の低下は、その労働者の職務の変更に伴う当然の結果であるから労基法第91条の制裁規定の制限に抵触するものではない。」としています。
これに対して後者について通達は、就業規則における「将来にわたって本給の10分の1以内を減ずる」と定めた降給の制裁について、「降給が従前の職務に従事せしめつつ、賃金額のみを減ずる趣旨であれば、減給の制裁として労働基準法第91条の適用がある。」としています。

3.出勤停止に伴う減給
出勤停止とは、就業規則に規定された懲戒行為をした労働者を一定期間出社させず賃金の支払いを行わないことです。出勤停止期間中の賃金が支払われないことになりますので、減給に比して多額の賃金を減額されることになりますが、制裁規定の制限は適用されません。
通達においても、「出勤停止期間中の賃金を受けられないことは、制裁としての出勤停止の当然の結果であって、通常の額以下の賃金を支給することを定める減給の制裁に関する労働基準法第91条の規定には関係ない。」とされています。
それでは出勤停止期間としてはどのくらいの期間が妥当なのでしょうか。法令においては期間の上限・下限等の定めはありませんので、その期間は使用者において定めることになります。しかし、過度に厳しい期間を処分として下してしまうと、裁判等になった場合には「無効」とされるリスクがありますので、注意が必要です。
通達では、「ただし、出勤停止の期間については公序良俗の見地より当該事犯の情状の程度等により制限のあるべきことは当然である。」とされていますし、労働契約法においても第15条で「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」とありますので、十分に検討しなければなりません。

4.遅刻・早退・欠勤控除による減給
遅刻・早退および欠勤によって、不就労時間に相当する賃金を控除することは制裁規定の制限は適用されません。ただし、不就労時間を超える減給は、制裁規定の制限の適用を受けることになります。
通達においても、「遅刻、早退又は欠勤の場合、その時間については賃金債権が生じないものであるから、労働の提供のなかった時間に相当する分の減給は、労働基準法第91条にいう減給の制裁としての制限を受けない。しかし、遅刻早退の時間に対する賃金額を超える減給は制裁とみなされ、第91条に定める減給の制裁に関する規定の適用を受ける。」とされています。

以上のように、職場規律に違反した労働者に減給という懲戒処分を下す際には、法令によって制限が課されています。違反者への制裁だからといって、使用者の裁量によって自由にできるものではありませんので、慎重に行うことが必要です。
 

 
2025年08月22日 11:01

労基法規定の手当・補償の金額計算には平均賃金を使います

平均賃金とは、労働基準法に定められた手当てや補償等の支払いを行う場面において、算出される労働者の通常の賃金額に準じた金額のことです。
平均賃金を算定する場面として、労働基準法は下記の5つの場面を規定しています。そして平均賃金はそれらの金額を算定する際の基礎として用いられるものです。
  • 第二十条:解雇予告手当(労働者を解雇する場合の予告期間に代わる手当)予告期間に応じて平均賃金の30日分以上 ②第二十六条:休業手当(使用者の責めに帰すべき休業中の賃金)休業1日について平均賃金の60/100以上③第三十九条:年次有給休暇中の賃金(有給休暇を取得した日について支払われる賃金)休暇1日あたり平均賃金相当額④第七十六条、七十七条、七十九条~八十二条:災害補償(労働者が業務上負傷し若しくは疾病にかかり、又は死亡した場合の補償)休業補償 休業1日あたり平均賃金の60/100、障害補償 障害の程度に応じて平均賃金×一定の日数、遺族補償 平均賃金×1000日、葬祭料 平均賃金×60日、打切補償 平均賃金×1200日、分割補償 平均賃金×一定の日数 ⑤第九十一条:減給の制裁の制限額(制裁として、労働者の賃金を減給する場合の限度額) 減給1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならない。
上記の手当、補償等は、いずれも労働者の生活を保障するという趣旨であることから、平均賃金は労働者の通常の生活資金をありのままに算定することが基本原則とされています。
この基本原則に基づいた金額を算出するために労働基準法は平均賃金の計算方法を定めています。
 
平均賃金の計算方法:算定事由発生日*1以前三か月間*2における賃金の総額*3をその期間の総日数*4で除して算定することとされています。
<計算式>算定事由発生日以前三か月に支払われた賃金の総額÷その期間の総日数
なお、賃金締切日がある場合は、算定事由の発生した日の直前の賃金締切日から起算した三か月間を取って算定します。
*1:解雇予告手当⇒労働者に解雇の予告をした日、休業手当⇒休業日(休業が二日以上の期間にわたる場合は、最初の日)、年次有給休暇中の賃金⇒休暇を与えた日(休暇が二日以上の期間にわたる場合は、最初の日)、災害補償⇒死傷の原因たる事故発生の日又は診断によって疾病の発生が確定した日、減給の制裁の制限⇒減給の制裁の意思表示が相手方に到達した日
*2:事由の発生した日の前日から遡る三か月間であって、発生日は含まれない。なお、三か月は、暦日による三か月をいう。Ex)10/15事由発生日の場合、10/14~7/15の三か月間で92日となる。
*3:労基法第十一条に規定する賃金のすべてが含まれる。「第十一条:この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」
*4:平均賃金の算定期間となる三か月間の総暦日数であって、その期間中の労働日数ではない。
 
平均賃金は、原則として算定事由発生日以前三か月間における賃金の総額をその期間の総日数で除して算定するのであり、出勤日数に左右されない月給制によって賃金が支払われている場合には平均賃金に大きな変動はないが、賃金が日給制、時間給制又は出来高払制その他の請負制よって計算される場合で、その三か月間に欠勤が多いときなどは平均賃金も低額となり、労働者の生活資金をありのままに算定するという平均賃金の趣旨が失われることになります。
このような場合のために賃金の一部又は全部が日給制、時間給制又は出来高払制その他の請負制によって定められている場合には、最低保障額が定められています。
その最低保障額の計算方法は、「Ⓐ賃金が労働した日若しくは時間によって算定され、又は出来高払制その他の請負制によって定められた場合においては、賃金の総額をその期間中に労働した日数で除した金額の百分の六十」、「Ⓑ賃金の一部が、月、週その他一定の期間によって定められた場合においては、その部分の総額をその期間の総日数で除した金額と前記Ⓐの金額の合算額」、Ⓐ又はⒷと原則どおり計算した金額とを比較していづれか高い金額を平均賃金とすることとされています。
 
平均賃金の算定期間である三か月間に以下に該当する期間がある場合には、算定期間からこれらの期間中の日数、賃金の総額からこれらの期間中の賃金を、それぞれ除外し、残余の期間の日数と賃金額で平均賃金を算出します。
    ①業務上の傷病による休業期間
             ②産前産後の休業期間
             ③使用者の責めに帰すべき事由による休業期間
             ④育児休業及び介護休業期間
             ⑤試みの使用期間
仮にこれらの期間及びその期間中の賃金を除外しないこととすると、平均賃金が不当に低くなることがあるため、その配慮から規定されているものです。
 
平均賃金を算定するに当たって、賃金総額に以下の賃金は参入しません。
①臨時に支払われた賃金
臨時的、突発的事由にもとづいて支払われたもの、及び結婚手当等支給条件は予め確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、且非常に稀に発生するものをいう。
②三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
賃金の計算期間が三か月を超えるか否かによって定まるものであって、例えば年2回6か月ごと(三箇月を超える)に支払われる賞与等が該当するが、同じ賞与であっても、例えば四半期ごと(三箇月を超えない)に支払われる賞与は「賃金総額」に参入する。
③通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないもの
通貨以外のもので支払われた賃金とは、いわゆる実物給与のことであるが、実物給与のうち一定の範囲に属しないものは賃金総額に参入されない。つまり一定の範囲に属するものは参入される。では、一定の範囲に属する実物給与とは、労働基準法施行規則第二条に規定される「法令又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われる通貨以外のもの」のことである。したがって、法令又は労働協約で定められていない実物給与が賃金総額に算入されないということになる。
仮にこれらの賃金を算入することとすると、算定事由発生の時期によって、平均賃金に著しい高低を生じる可能性があるための措置です。
最後に平均賃金計算の具体例について記載しますので、ご参照ください。
 
 
 
 
【12/26~1/25までの間、15日の勤務予定があったのに、1/6、7の2日間、使用者側の都合によって休業させた(他は通常勤務)場合 休業手当の算定(日給制)】
基本給日額9,600円、通勤手当7,000円、賃金締切日は毎月25日
期間 月分 暦日数 労働日数 基本給(日額) 通勤手当(月額) 合計
9/26~10/25 10 30 17 163,200
 
7,000 170,200
10/26~11/25 11 31 9 86,400 7,000 93,400
11/26~12/25 12 30 15 144,000 7,000 151,000
合計   91 41 393,600 21,000 414,600
※算定事由発生日は休業させた初日である1月6日。賃金締切日が25日のため直近の締切日である12月から11月、10月の三か月間を対象とする。
<平均賃金の計算>
         ①原則:414,600円÷91日=4,556.043・・・≓4,556円04銭(銭未満切捨て)*1
   ②最低保障: 月によって支払ったもの21,000円÷91日≒230円76銭*1                   
                                    日によって支払ったもの393,600÷41日×0.6=5,760円00銭
                                   月+日5,990円76銭
             ①②の比較:高い方は②のため、5,990円76銭が労働者の平均賃金となる。
        *月給制の場合は最低保障額との比較はなく、①で算定する。
         ③休業手当の計算:5,990円76銭×0.6×2日=7,188.912≒7,189(円未満四捨五入)
                                             支払額7,189円以上。
 
端数処理について
*1:通達「一日の平均賃金の算定に当たり、銭未満の端数を生じたる時はこれを切捨て、各種補償等においては右に所定日数を乗じてその総額を算出する。」
*2「通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律」に円未満の端数は四捨五入と定められている。
 
 
2025年08月08日 15:42

令和7年成立「年金制度改正法」主な改正点②~在職老齢年金制度の見直しと厚生年金保険等の標準報酬月額上限引上げ~

令和7年5月16日「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」(年金制度改正法)が国会提出され、6月13日に成立しました。
この法律は、社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化を図る観点から、働き方や男女の差等に中立的で、ライフスタイルや家族構成の多様化を踏まえた年金制度を構築するとともに、所得再配分の強化や私的年金制度の拡充等により、高齢期における生活の安定を図るための公的年金制度の見直しが行われています。
既投稿済の記事の続編になりますので、ご確認ください。
主な改正内容である「在職老齢年金制度の見直し」及び「厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ」について記載します。
在職老齢年金制度とは、年金を受給しながら働く高齢者について、賃金と老齢厚生年金の合計が基準を超える場合に老齢厚生年金の支給を減らすことで、一定額以上の収入のある高齢者には年金制度の支え手に回ってもらうという観点から考案された仕組みで、納付した保険料に応じた給付を受けられることが原則である社会保険においては例外的な仕組みとなっています。
今回の改正では、在職老齢年金制度に適用されていた上記基準が、月50万円から62万円に引上げられます。(2026年4月から)
現行の制度では、賃金と老齢厚生年金の合計が50万円(2024年の基準)を超えると、超えた分の半額の年金が支給停止となるのですが、改正によって、賃金と老齢厚生年金の合計が62万円に達するまで在職老齢年金制度による影響を受けないということになります。
具体的には、賃金(ボーナス含む年収の十二分の一)が45万円+厚生年金額が10万円=55万円の高齢者の場合、現行の基準だと基準を超過した5万円の半額つまり2万5千円が支給停止となり厚生年金額は7万5千円となりますが、改正後基準だと基準を超過しないため支給停止されることなく満額の10万円が支給されることになるのです。
これにより、働き続け、また年金が減らないよう時間を調整して会社等で働くことを希望する高齢者のニーズに適応することができる仕組みになるということです。
高齢者の活躍による人手不足の解消や在職老齢年金制度が高齢者の就業調整や労働参加を妨げるといった労働抑制防止の効果が期待されます。
次に厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについてです。
標準報酬月額とは、日本の健康保険・厚生年金保険(社会保険)における概念で、被保険者が受ける給与を標準報酬月額等級表の区分にあてはめて給与額の等級を決定する給与額に準じた額のことです。この標準報酬月額は、厚生年金制度において保険料額、将来の厚生年金の受給額等の算出根拠となるもので制度の根幹を形成する大切なものです。
現行の厚生年金制度では、この標準報酬月額等級は第1等級(88千円)~第32等級(650千円)の32等級に区分されており、報酬月額が635,000円以上の被保険者の場合には第32等級の650千円の最高(上限)等級に該当し、保険料額も給付額も計算上差がないということになっています。
このため、現行の標準報酬月額の上限を超える賃金を受けている被保険者は、実際の賃金に対する保険料の割合が低く、収入に応じた年金を受給できない。つまり賃金に相応しい保険料を納めていないので、相応しい年金を受給できる仕組みになっていないのです。
これを解消し、賃金に応じた保険料を負担することで、現役時代の賃金に見合った年金を受給できる仕組みとするために、厚生年金保険の標準報酬月額の上限を650千円から750千円に引上げることになりました。これが今回の改正内容です。引き上げの時期としては、2027年9月~680千円、2028年9月~710千円、2029年9月~750千円と段階的に引上げられることになっています。
なお、標準報酬月額が現行の上限未満の被保険者の場合は、保険料額及び給付額に対する変更はありません。
 
2025年07月11日 11:19

令和7年成立「年金制度改正法」主な改正点①~被用者保険の適用拡大~

令和7年5月16日「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」(年金制度改正法)が国会提出され、6月13日に成立しました。
この法律は、社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化を図る観点から、働き方や男女の差等に中立的で、ライフスタイルや家族構成の多様化を踏まえた年金制度を構築するとともに、所得再配分の強化や私的年金制度の拡充等により、高齢期における生活の安定を図るための公的年金制度の見直しが行われています。
主な改正内容の一つである「被用者保険の適用拡大」について記載します。
被用者保険の適用拡大のポイントは3点です。
まず第一に短時間労働者の加入要件の緩和です。正社員の社会保険への加入は従来から義務となっていましたが、短時間労働者については一定の要件に該当する場合に加入とされていました。この短時間労働者の加入要件について、2016年10月から一定の要件を満たさない場合であっても①被保険者数が常時501人以上の事業所に勤務していること、②週の所定労働時間が20時間以上あること、③雇用期間が1年以上(後に2か月超に改正)見込まれること、④賃金月額が88000円以上あること、⑤学生(昼間)でないことの要件に該当した場合は加入となることとされました。そして①の事業所の被保険者数要件(企業規模要件)は、2022年10月:101人以上、2024年10月:51人以上と徐々に減少となり、加入対象者の幅が拡大され、現行制度では被保険者数51人以上の事業所とされています。
今回の改正では、この企業規模要件がさらに段階的に縮小され、最終的には撤廃となるというものです。併せて④の賃金要件についても撤廃されます。①の縮小・撤廃の時期については、2027年10月:36人以上、2029年10月:21人以上、2032年10月:11人以上、2035年10月:10人以下(被保険者数要件なし)と10年かけて撤廃されるスケジュールとなっています。②の撤廃は全国の最低賃金の引上げの状況を見極めて法律の公布から3年以内とされています。
これら短時間労働者の社会保険への加入要件の緩和によって、これまでよりも多くの短時間労働者が社会保険へ加入することになります。
第二に個人事業所の適用対象の拡大が予定されています。
現行制度では、法人の事業所で常時従業員を使用するものは社会保険の適用事業所として法律上社会保険に必ず加入する事業所ですが、個人事業所の場合は、常時5人以上の従業員を使用する法定の17業種*1が適用事業所であり、常時5人未満の従業員を使用するもの及び法定17業種以外の事業所は適用事業所ではなく、法律上必ず加入する必要はない事業所(任意包括適用制度あり)です。
今回の改正では、法定17業種に限らず、常時5人以上の従業員を使用する全業種の事業所を適用対象とするよう拡大されます。
ただし、2029年10月の施行時点で既に存在している事業所は当分の間適用しないとの経過措置が設けられています。
以上、被用者保険の適用拡大に関する改正によって、新たに社会保険への加入となる短時間労働者及び事業主は保険料の追加負担が発生することになります。
そして第三のポイントとして挙げられるのがその負担軽減措置です。
その措置とは、適用拡大の対象となる比較的小規模な企業で働く短時間労働者*2に対し、 社会保険料による手取り減少の緩和、就業調整を減らし、被用者保険 の持続可能性の向上につなげる観点から、3年間、保険料負担を国の 定める割合*3に軽減できる特例的・時限的な経過措置を実施することです。 具体的には、社会保険料は労使折半が原則ですが、この措置の利用を希望する事業主は、法令で定めた負担割合により労使折半を超えて会社が保険料を多く支払い、その分労働者負担分を少なくするというものです。
なおその際、事業主が労使折半を超えて追加負担した保険料相当額を国が支援するという事業主への措置も用意されています。
このような負担軽減措置が実際に負担を被ることになる特に中小事業主や短時間労働者の負担をどれだけ緩和する効果があるのかは定かではありませんが、来るべき適用拡大の波を乗り切るための事前準備を進めておくことが重要です。
*1:①物の製造、②土木・建設、③鉱物採掘、④電気、⑤運送、⑥貨物積おろし、⑦焼却・清掃、⑧物の販売、⑨金融・保険、⑩保管・賃貸、⑪媒介周旋、⑫集金、⑬教育・研究、⑭医療、⑮通信・報道、⑯社会福祉、⑰弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務等を取り扱う士業
*2:対象者は、従業員50人以下の企業などで勤務し、企業規模の見直しなどにより新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者であって、標準報酬月額が126千円以下である者
*3:・標準報酬月額88千円 労働者負担割合50%→25%
   ・標準報酬月額98千円 労働者負担割合50%→30%
   ・標準報酬月額104千円 労働者負担割合50%→36%
   ・標準報酬月額110千円 労働者負担割合50%→41%
   ・標準報酬月額118千円 労働者負担割合50%→45%
   ・標準報酬月額126千円 労働者負担割合50%→48%
   ・標準報酬月額134千円~ 労働者負担割合50%→50%
    (3年目は軽減措置を半減)
 
 
2025年07月09日 10:46
事務所名 アクサリス社会保険労務士事務所
代表者名 三戸 和洋
所在地 〒755-0004 山口県宇部市草江一丁目10-19-1
アクセス ・JR宇部線草江駅から徒歩10分
・山口宇部空港から徒歩15分
・ときわ公園入口から徒歩20分
電話番号 090-3263-4864
営業時間 9:00〜18:00
定休日 土・日・祝日

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