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令和9年1月1日~療養、育児又は介護(療養等)と仕事を両立することで報酬が急減した場合の標準報酬月額の保険者算定の特例措置が適用されます。

○保険者算定の特例とは
標準報酬月額とは、日本の健康保険・厚生年金保険(社会保険)における概念で、被保険者が受ける給与を標準報酬月額等級表の区分に当てはめて給与額の等級を決定する給与額に準じた額のことです。この標準報酬月額は、社会保険制度の保険料額、健康保険の保険給付額、将来の厚生年金の受給額の算出根拠となるもので社会保険制度の根幹を形成する非常に重要なものです。
標準報酬月額は、定時決定(算定基礎)*1、資格取得時決定*2、育児休業終了時改定*3、産前産後終了時改定*4又は随時改定(月額変更)*5の場面において、それぞれ決定・改定されます。
*1:健康保険法第四十一条第一項・厚生年金保険法第二十一条第一項、*2:健保法第四十二条第一項・厚年法第二十二条第一項、*3:健保法第四十三条の二第一項・厚年法第二十三条の二第一項、*4:健保法第四十三条の三第一項、厚年法第二十三条の三第一項、*5:健保法第四十三条第一項、厚年法第二十三条第一項
上記のように法律に規定された場面において決定・改定される標準報酬月額には、健康保険法第四十四条・厚生年金保険法第二十四条で以下の様な規定で、「報酬月額の算定の特例」が設けられています。
 
健康保険法第44条 (報酬月格の算定の特例)保険者等は、被保険者の報酬月額が、第41条第1項、第42条第1項、第43条の2第1項若しくは前条第1項の規定によって算定することが困難であるとき、又は第41条第1項、第42条第1項、第43条第1項、第43条の2第1項若しくは前条第1項の規定によって算定した額が著しく不当であると認めるときは、これらの規定にかかわらず、その算定する額を当該被保険者の報酬月額とする。
厚生年金保険法第24条 (報酬月額の算定の特例)被保険者の報酬月額が、第21条第1項、第22条第1項、第23条の2第1項若しくは前条第1項の規定によって算定することが困難であるとき、又は第21条第1項、第22条第1項、第23条第1項、第23条の2第1項若しくは前条第1項の規定によって算定した額が著しく不当であるときは、これらの規定にかかわらず、実施機関が算定する額を当該被保険者の報酬月額とする。
これを保険者算定といい、法に規定された方法に沿わないイレギュラーなケースを処理する方法として使用されています。
この度、「療養、育児又は介護と仕事を両立することで報酬が急減した場合」にこの保険者算定の特例が適用されることになりました。
その適用期日は、行政通達において「令和9年1月1日から適用する。」とされていますので、以降は特例を用いた標準報酬月額の改定が可能になります。
 
○保険者算定導入の背景
療養、育児、介護と仕事を両立するためには、所定労働時間の短縮や時間外労働の抑制等といった「就労調整」によって、仕事時間を削減し私的時間を捻出することが必要となります。その結果として、報酬が減少し生計に充てるべき給与額に影響が生じることは必然です。しかし、就労調整によって報酬が急減し、急減後の報酬の総額を基にした標準報酬月額が従前の標準報酬月額に比べて2等級以上低下する場合であっても、通常の随時改定(月額変更)の取扱い*6による場合には、標準報酬月額が改定されるまでに3か月の期間を待たなければならず、その間は従前の標準報酬月額が維持され、従前の保険料を支払うことになります。
療養、育児、介護というやむを得ない事情によって、報酬が減少した被保険者にとって、3か月間高額のままの保険料が徴収されることは過酷であることから、療養、育児、介護を行う被保険者が仕事との両立をする場合には、それを支援する観点から、就労調整の結果として標準報酬月額が2等級以上低下した場合においては、通常の随時改定の取扱いによることなく、より速やかに現状に適合した形で、標準報酬月額を改定できるようにしたものです。
*6:随時改定成立の要件
①固定的賃金の変動
②変動月以後引き続く3か月とも支払基礎日数が17日(短時間労働者は11日)以上
③変動月から3か月間の報酬の平均額と現在の標準報酬月額に2等級以上の差
上記から、随時改定の要件を充たすためには、3か月の期間が必要となります。
 
○保険者算定の特例の内容
保険者算定の特例とはどのようなものなのかについて通達は以下のように説明しています。
適用事業所の事業主から、下記の対象者(後述)について、下記に定める手続の方法(後述)により、療養等と仕事を両立するための就労調整を行うことにより報酬が急減し、急減後の報酬の総額を基にした標準報酬月額が、従前の標準報酬月額に比べて2等級以上低下し、かつその状態が3か月以上続くことが予め見込まれるものとして届出があった場合には、固定的賃金の変動の有無にかかわらず、特例措置により、報酬減となった初月( *7)に受けた報酬の総額を、新たな標準報酬月額として改定できる取扱いとする(*8)(*9)。 ただし、就労調整が終了・縮小したことにより報酬が増加し、増加後の報酬の総額を基にした標準報酬月額が、その者の標準報酬月額(特例措置による改定後のもの) に比べて2等級以上上昇した場合には、固定的賃金の変動の有無にかかわらず、速やかに、その内容を届け出た上で、報酬増となった初月(*10)に受けた報酬の総額を、 新たな標準報酬月額として改定するものとする(*11)。
(*7)報酬減となった初月は、療養等を理由とした就労調整を行い、標準報酬月額が2等級以上低下し、かつその状態が3か月以上続くことが予め見込まれるものとして事業主が届け出た月とする。
(*8)報酬減となった初月の報酬支払の基礎となった日数(以下「支払基礎日数」という。)に ついては、療養等と仕事を両立するための就労調整により勤務しなかった日(報酬の支払の有無は問わない。)がある場合であっても、所定労働日数に変更は無く、かつ使用関係が継続しているときは、当該勤務しなかった日も支払基礎日数として取り扱う。そのうえで、 支払基礎日数が17日(健康保険法第41条第1項及び厚生年金保険法第21条第1項の規定により11日とされている者にあっては11日。以下同じ。)未満となる場合は、当該月は 特例措置の対象外とする。
(*9)報酬減となった初月の全部にわたって勤務せず、報酬が一切支払われなかった場合は、 療養等と仕事を両立しているとは言い難いため、当該月は特例措置の対象外とする。
(*10)報酬増となった初月は、療養等を理由とした就労調整が終了し、標準報酬月額が2等級以上上昇した月とする。
(*11)報酬増となった初月の支払基礎日数については、報酬減となった初月の支払基礎日数の取扱いと異なり、報酬支払いが無かった日は、支払基礎日数として取り扱わない。
 
○保険者算定の特例の対象者
保険者算定の特例の対象者について、通達では以下の者とされています。
健康保険・厚生年金保険被保険者及び厚生年金保険70歳以上被用者のうち、次のいずれにも該当する者であること。
① 療養等(*12)と仕事を両立するための就労調整が行われていること。
② 当該就労調整により報酬が急減し、急減後の報酬の総額を基にした標準報酬月額が、従前の標準報酬月額に比べて2等級以上低下し、かつその状態が3か月以上続くことが予め見込まれること。
 ③ 特例措置による改定を行うことについて、対象者が書面で同意していること。
(*12)療養、育児又は介護とは、それぞれ次の場合を指す。
・療養:被保険者本人が傷病の治療若しくはこれに準ずる措置(以下「治療等」という。)を受ける場合又は家族の傷病の治療等に伴い被保険者が看護等の必要な対応をする場合
・育児:被保険者の小学校就学の始期に達するまでの子を被保険者が養育する場合
・介護:介護保険法(平成9年法律第123号)に基づく要介護認定又は要支援認定を受けている家族を被保険者が介護する場合
(注)通常の随時改定の取扱いと同様、2等級以上低下する者には、次の場合を含む。
・ 健康保険50級又は厚生年金保険第32級の標準報酬月額にある者の報酬月額 (健康保険にあっては報酬月額が141万5,000円以上、厚生年金保険にあっては報酬月額が66万5,000円以上である場合に限る。)が降給したことにより、その算定月額が健康保険49級又は厚生年金保険第31級以下の標準報酬月額に該当することとなった場合。
・ 第2級の標準報酬月額にある者の報酬月額が降給することにより、その算定月額が健康保険にあっては5万3,000円未満、厚生年金保険にあっては8万3,000円未満となった場合。
(注)報酬減となった初月の翌月に被保険者資格を喪失する者については、当該初月の翌月の保険料が賦課されないため、特例措置の対象にはならない。(なお、当該初月の翌月末に退職する者については、当該初月の翌々月1日に被保険者資格を喪失する。)
(注)被保険者期間が報酬減となった初月を含めて3か月未満の者については、健康保険法第43条第1項及び厚生年金保険法第23条第1項の規定上、特例措置による届出の対象とはならないこととなる。
 
○手続きの方法
手続きについては、被保険者報酬月額変更届(特例改定用)に申立書兼同意書を添えて日本年金機構に提出することとされています。(健康保険組合加入事業所は機構および組合に提出)
被保険者報酬月額変更届の記入に関して通達は、「届出書中、継続した3か月の各月の報酬月額等を記載する欄のうち一番下の月(3か月目)の欄のみに、報酬減となった初月に係る報酬月額等を記載する取扱いとして差し支えない。」としています。
なお、申立書兼同意書の記入に関して通達は、以下の内容を事業主が確認したことの申し立てと対象者本人が「同意」していることの記載が必要としています。
<事業主の申し立て> について
・ 療養等と仕事を両立するための就労調整により報酬が急減し、急減後の報酬の総額を基にした標準報酬月額が、従前の標準報酬月額に比べて2等級以上低下し、かつその状態が3か月以上続くことが予め見込まれる旨
・ 対象者がその要件に該当していることを確認した上で、対象者本人の同意を得ている旨
・特例措置の届出の内容が事実であることを確認できる書類(*13の書類。 例:出勤簿、賃金台帳、療養の事実が分かる医師の診断書、子の年齢を証明する書類、要介護状態又は要支援状態であることを証明する書類など)を、 届出から2年間、確実に保存する旨
*13:事業主における関連書類の保存について通達は、
日本年金機構及び健康保険組合への届出内容について、日本年金機構及び健康保険組合が必要に応じて事後的に確認できるよう、適用事業所の事業主においては、特例措置の届出及び申立書兼同意書の内容が事実であることを確認できる書類( 例えば、就労調整を行う原因となった療養等の事実を証明する書類など)を届出日から2年間保存することが必要、としています。
 
・就労調整が終了・縮小したことにより報酬が増加し、増加後の報酬の総額を基にした標準報酬月額がその者の標準報酬月額(特例措置による改定後のもの)に比べて2等級以上上昇した場合には、固定的賃金の変動の有無にかかわらず、速やかに、その内容を届け出た上で、報酬増となった初月に受ける報酬の総額を、新たな標準報酬月額として改定する旨
・健康保険及び厚生年金保険双方で同様の特例改定の手続を同時に行う旨
⇒その実行性を担保するため、通達は「健康保険及び厚生年金保険の社会保険制度としての適用上の一体性を確保し、 給与事務等の複雑化を防止する等の観点から、事業主からの申立書において、健康保険及び厚生年金保険双方で同様の特例改定の手続を行う旨のチェック欄を設けているため、この点を確認し、チェックがない場合には、事業主に対し申立書を返戻し、同時に手続きを行うよう求める」ことを健保組合及び年金機構に指示しています。
<被保険者本人の同意>について
 ・特例措置による改定を行う場合は、被保険者の保険料額への影響のみならず、将来の年金給付が減少すること、傷病手当金及び出産手当金への影響も生じることについて、十分に理解した上で同意する旨
 
まとめ
以上、令和9年1月1日から、療養、育児、介護(療養等)と仕事を両立する被保険者を支援するために、標準報酬月額の保険者算定の特例が適用されることになります。
この特例は、療養、育児、介護といった本人の努力だけではその負担を軽くすることができない事情を持つ被保険者を金銭面から支援するという施策です。
この特例を利用すれば、通常の随時改定よりも速やかに標準報酬月額を改定でき、保険料負担を軽減することができます。さらに改定以降も事情が継続する限り支援を継続することができます。
しかし、この金銭的なメリットには裏返せばデメリットがあることを十分に理解しておかなければなりません。
そのデメリットとは、冒頭「標準報酬とは」で記載した「標準報酬月額は、社会保険制度の保険料額、健康保険の保険給付額、将来の厚生年金の受給額の算出根拠となるもので社会保険制度の根幹を形成する非常に重要なもの」ということです。
つまり、特例を使って標準報酬月額を下げた場合には、その下がった後の標準報酬月額を使用して保険料額が計算されるのはもちろん、健康保険の保険給付額、将来の厚生年金の受給額についてもそれを使用して計算されるということになるのです。
特例によって保険料負担は軽減されますが、その間に傷病手当金や出産手当金を受給することになったときにはそれに見合った受給額となりますし、将来の年金の計算に際してもその時の標準報酬月額が反映されますので、そのことを承知の上で、特例の利用を検討する必要があります。
そのようなデメリットがあるが故に通達は、手続の方法について被保険者本人の同意書を提出すること、また「被保険者本人の同意」に関して、「特例措置による改定を行う場合は、被保険者の保険料額への影響のみならず、将来の年金給付が減少すること、傷病手当金及び出産手当金への影響も生じることについて、十分に理解した上で同意する旨」の記載を要求しているのです。
事業主も被保険者本人も保険料が下がるからと、安易に特例の利用を決定するのではなく、十分に検討した上での判断が重要となるのです。
2026年10月05日 14:53

派遣労働者の待遇決定方式~派遣先均衡・均等方式と労使協定方式~

派遣労働者の待遇については、派遣先に雇用される通常の労働者と派遣労働者との間の不合理な待遇差を解消するという同一労働同一賃金の考え方に基づき、派遣元事業主は「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」のいずれかにより待遇を確保することが令和2年4月より義務化されています。両方式はいずれも派遣労働者の不合理な待遇差を解消し、適切な処遇を確保することによって派遣労働者の保護を図り、もって派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的としていますが、両者には待遇を決定する基準や導入手続き、メリット・デメリット等相違点があることから、採用選択に当たっては十分に検討することが必要です。
○派遣先均等・均衡方式とは?
派遣先均等・均衡方式は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第三十条の三に規定されているもので、派遣先で働く通常の労働者を比較対象として、基本給、賞与、福利厚生、教育訓練、安全管理などの全ての待遇のそれぞれについて、不合理な待遇差が生じないように決定する方式です。
 
第三十条の三(不合理な待遇の禁止等) 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣先に雇用される通常の労働者の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
2 派遣元事業主は、職務の内容が派遣先に雇用される通常の労働者と同一の派遣労働者であって、当該労働者派遣契約及び当該派遣先における慣行その他の事情からみて、当該派遣先における派遣就業が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該派遣先との雇用関係が終了するまでの全期間における当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものについては、正当な理由がなく、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する当該通常の労働者の待遇に比して不利なものとしてはならない。
つまり、「派遣先社員と比べて不合理・不利な待遇差がないか」という観点から待遇を決定する方式であり、同じ職場で働く労働者間の公平性を重視しています。
○労使協定方式とは?
労使協定方式は、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律第三十条の四に規定されているもので、派遣元事業主が労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数代表者と一定の要件を満たす労使協定を締結し、その協定に基づいて待遇を決定する方式です。
 
第三十条の四 派遣元事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、その雇用する派遣労働者の待遇(第四十条第二項の教育訓練、同条第三項の福利厚生施設その他の厚生労働省令で定めるものに係るものを除く。以下この項において同じ。)について、次に掲げる事項を定めたときは、前条の規定は、第一号に掲げる範囲に属する派遣労働者の待遇については適用しない。ただし、第二号、第四号若しくは第五号に掲げる事項であって当該協定で定めたものを遵守していない場合又は第三号に関する当該協定の定めによる公正な評価に取り組んでいない場合は、この限りでない。
一 その待遇が当該協定で定めるところによることとされる派遣労働者の範囲
二 前号に掲げる範囲に属する派遣労働者の賃金の決定の方法(次のイ及びロ(通勤手当その他の厚生労働省令で定めるものにあっては、イ)に該当するものに限る。)
イ 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額として厚生労働省令で定めるもの*1と同等以上の賃金の額となるものであること。
ロ 派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項の向上があつた場合に賃金が改善されるものであること。
三 派遣元事業主は、前号に掲げる賃金の決定の方法により賃金を決定するに当たっては、派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を公正に評価し、その賃金を決定すること。
四 第一号に掲げる範囲に属する派遣労働者の待遇(賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定の方法(派遣労働者の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する派遣元事業主に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く。)の待遇との間において、当該派遣労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違が生じることとならないものに限る。)
五 派遣元事業主は、第一号に掲げる範囲に属する派遣労働者に対して第三十条の二第一項の規定による教育訓練を実施すること。
六 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項*2
*1: 施行規則第二十五条の九(法第三十条の四第一項第二号イの厚生労働省令で定める賃金の額) 法第三十条の四第一項第二号イの厚生労働省令で定める賃金の額は、派遣先の事業所その他派遣就業の場所の所在地を含む地域において派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者であって、当該派遣労働者と同程度の能力及び経験を有する者の平均的な賃金の額とする。
と規定されており、厚生労働省職業安定局長通知によって「同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額」が毎年示されます。
法第二号イのとおり、労使協定で定める「賃金」については、職業安定局長通知で示される派遣労働者と同種の業務に従事する一般労働者の平均賃金と同等以上になるように決定するとともに、ロのとおり昇給規定等の賃金改善の仕組みを設ける必要があります。
*2:第二十五条の十(法第三十条の四第一項第六号の厚生労働省令で定める事項)
 法第三十条の四第一項第六号の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。
一 有効期間
二 法第三十条の四第一項第一号に掲げる派遣労働者の範囲を派遣労働者の一部に限定する場合には、その理由
三 派遣元事業主は、特段の事情がない限り、一の労働契約の契約期間中に、当該労働契約に係る派遣労働者について、派遣先の変更を理由として、協定対象派遣労働者であるか否かを変更しようとしないこと。
 
○派遣先均等・均衡方式と労使協定方式の特長比較
「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」 により、派遣元事業主は、派遣労働者の公正な待遇を確保するため、派遣先に雇用される通常の労働者との間の均等・均衡待遇の確保又は法定の要件を満たす労使協定による待遇の確保のいずれかの待遇決定方式により、派遣労働者の待遇を確保しなければならないこととされています。
派遣先均等・均衡方式は、派遣先で働く通常の労働者を比較対象として、基本給、賞与、各種手当、福利厚生、教育訓練などの待遇について不合理な待遇差が生じないように派遣労働者の待遇を決定する方式です。つまり、「派遣先社員と比べて不合理な待遇差がないか」という観点から待遇を決定する方式であり、同じ職場で働く労働者間の公平性を重視しています。
一方労使協定方式は、派遣元事業主が過半数労働組合又は過半数労働者代表と一定の要件を満たす労使協定を締結し、その協定に基づいて派遣労働者の待遇を決定する方式です。この方式では、派遣先の通常の労働者を比較対象とするのではなく、同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準を基準として待遇を決定します。
この一般労働者の賃金水準は、「派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金(一般賃金)の額」として厚労省が毎年公表するものですが、派遣労働者の賃金はこの水準と同等以上となるように設定しなければならないこととされています。
両方式はいずれも派遣労働者の不合理な待遇差を解消し、適正な処遇を確保することを目的としていますが、待遇を決定する基準や運用方法に違いがあります。
参考として両方式の相違点について比較しました。
<方式特長比較表>
比較項目 派遣先均等・均衡方式 労使協定方式
待遇の比較対象 派遣先の通常の労働者 (比較対象労働者)※1 同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額
派遣先の同種労働者の教育訓練の内容
給食施設・休憩室・更衣室の福利厚生施設の内容※2
待遇決定の方針 派遣先社員との不合理な待遇差の解消 労使協定に基づき待遇決定
賃金決定基準 比較対象労働者の賃金 同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額
必要な手続 派遣先から比較対象労働者の選定と情報の提供を受ける 過半数労働組合又は過半数労働者代表と労使協定を締結する
重視事項 派遣先社員との均等・均衡 派遣元による統一的な処遇設計
(注)※1、※2
(契約の内容等)
法第二十六条 労働者派遣契約(当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約をいう。以下同じ。)の当事者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣契約の締結に際し、次に掲げる事項を定めるとともに、その内容の差異に応じて派遣労働者の人数を定めなければならない。(1~6省略)                                                        7 労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は、第一項の規定により労働者派遣契約を締結するに当たっては、あらかじめ、派遣元事業主に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣に係る派遣労働者が従事する業務ごとに、比較対象労働者の賃金その他の待遇に関する情報その他の厚生労働省令で定める情報を提供しなければならない。
(法第二十六条第七項の厚生労働省令で定める情報)
施行規則第二十四条の四 法第二十六条第七項の厚生労働省令で定める情報は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める情報とする。
一 労働者派遣契約に、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を協定対象派遣労働者に限定しないことを定める場合 次のイからホまでに掲げる情報
イ 比較対象労働者(法第二十六条第八項に規定する比較対象労働者をいう。以下同じ。)の職務の内容(同項に規定する職務の内容をいう。以下同じ。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲並びに雇用形態
ロ 当該比較対象労働者を選定した理由
ハ 当該比較対象労働者の待遇のそれぞれの内容(昇給、賞与その他の主な待遇がない場合には、その旨を含む。)
ニ 当該比較対象労働者の待遇のそれぞれの性質及び当該待遇を行う目的
ホ 当該比較対象労働者の待遇のそれぞれについて、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇に係る決定をするに当たって考慮したもの
施行規則第二十四条の四
二 労働者派遣契約に、当該労働者派遣契約に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を協定対象派遣労働者に限定することを定める場合 次のイ及びロに掲げる情報                                           イ 法第四十条第二項の教育訓練の内容(当該教育訓練がない場合には、その旨)                                                          ロ 第三十二条の三各号に掲げる福利厚生施設の内容(当該福利厚生施設がない場合には、その旨)
(法第四十条第三項の厚生労働省令で定める福利厚生施設)
施行規則第三十二条の三 法第四十条第三項の厚生労働省令で定める福利厚生施設は、次のとおりとする。
一 給食施設 
二 休憩室 
三 更衣室
 
○派遣先均等・均衡方式と労使協定方式のメリット・デメリット
派遣先均等・均衡方式のメリットは、派遣先の通常の労働者との均等・均衡待遇を確保しやすく、職場内での公平感や納得感を得やすいことです。
一方で派遣元は、待遇を決定するために派遣先から比較対象労働者の職務内容や賃金、手当、福利厚生などの情報提供を受ける必要があり、待遇の検討や管理に大きな事務負担が生じることや、派遣先においても比較対象労働者の選定や待遇情報の整理・提供が必要となるため、派遣先の事務負担も増加するという課題があります。
これに対して労使協定方式のメリットは、派遣元が統一的な処遇制度を運用しやすく、派遣先ごとに比較対象労働者を選定したり待遇情報を収集したりする必要がないため、派遣元・派遣先双方の事務負担を軽減できることです。
一方で、比較対象が派遣先の通常の労働者ではなく一般労働者であるため、場合によっては派遣先社員との待遇差が生じることがあり、職場内での公平感や納得感という点では、課題が発生することがあります。
このように派遣先均等・均衡方式と労使協定方式は、先に記載したその待遇の比較対象、賃金決定基準、必要な手続の違いから、一方のメリットはもう一方のデメリットに、また一方のデメリットはもう一方のメリットにといった風に、それぞれ相対する側面があり、派遣元、派遣先、派遣労働者といった各方式に関わる立場の違いによっても、また、受ける影響に違いが見られます。
以下に各方式の関係者ごとのメリット、デメリットについてまとめましたので参考にしてください。
<派遣先均等・均衡方式>
「派遣先のメリット」
派遣先の待遇情報を基準にすることから
・自社の待遇が高水準の場合、派遣希望労働者が増え、優秀な人材を集めやすくなる。
また、条件面の不満が少なく、定着率も高くなる。
「派遣先のデメリット」
・派遣元に業務内容や待遇についての情報を提供したり、比較対象労働者を選出する等の手間がかかるため業務負担が大きい。
・自社の待遇水準が低い場合、応募が集まりにくくなり、派遣受け入れ後も条件面の不満により離職率が上がる可能性があるため、一般と同水準の待遇水準が要求される。
「派遣元のメリット」
派遣先の待遇水準を基準にすることから
・派遣先の待遇水準が高い場合、好条件の求人を出すことができ、優秀な労働者を集めやすくなる。
「派遣元のデメリット」
・顧客となる派遣先から業務内容や待遇に関する情報を提供してもらう必要があるため、顧客に時間や手間をかけさせてしまい、商談の障壁となる可能性がある。
・派遣労働者に支払う賃金が、派遣先に左右されることになるため、資金計画が立てにくい。
<労使協定方式>
「派遣先のメリット」
・派遣元に提供する情報量が少ないため、業務負担が軽減され、迅速な契約の締結と派遣労働者の受け入れが可能となる。
・厚労省が公表する同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額を基準にすることから、賃金水準が一定に保たれ、派遣労働者にとってモチベーションが維持でき、生産性の向上が望める。
「派遣先のデメリット」
・派遣労働者の待遇が派遣元の労使協定で決定されるため、自社の待遇によっては派遣労働者との待遇差が認められる場合があり、条件面についての不満が生じる可能性がある。
・派遣労働者の賃金が派遣元の労使協定で決定されることから、派遣料金が派遣元によって異なるため、契約に際しては複数の派遣元を比較検討する必要がある。
「派遣元のメリット」
厚労省が公表する派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金の額を基準にすることから
・派遣先の賃金水準にとらわれることなく、派遣労働者の待遇を決定できる。
・派遣先が変更になった場合でも賃金を一定水準に保つことができるため、派遣労働者にとって働きやすく生活の安定に寄与できる。
・顧客である派遣先に大きな業務負担を掛けることなく契約ができる。
 
「派遣元のデメリット」
・労使協定の締結に当たって、過半数労働組合等と交渉・合意の必要があり時間と手間がかかる。
・労使協定の定期的な見直し・改定が必要であり、時間と手間がかかる。
 
○まとめ
以上、派遣労働者の待遇決定方式である派遣先均等・均衡方式及び労使協定方式について記述しました。
派遣元事業主は派遣労働者の公正な待遇を確保するため、この二方式のいずれかの待遇決定方式によって派遣労働者の待遇を確保しなければならないこととされています。そのために既述のようなメリット・デメリット等を考慮して、派遣元事業主は二方式の採用選択について検討し、実務上どちらの方式にするのかを決定し派遣労働者の待遇の確保を行っています。厚生労働省の資料によるとおよそ9割が労使協定方式を選択しているとの統計があり、運用しやすいという理由からでしょう、圧倒的に労使協定方式の選択の方が多く、主流となっているようです。
なお、派遣労働者の待遇確保に関するルールについては、令和8年10月1日に労働者派遣法施行規則及び同一労働同一賃金ガイドラインの改正が予定されています。以降は、待遇に関する説明の充実や公正な評価による処遇改善が一層求められることになりますので、改正内容についても確認しておくことが必要です。
2026年09月18日 14:21

短時間労働者の社会保険加入要件(賃金月額88,000円)の撤廃期日が決定しました

令和7年成立「年金制度改正法」主な改正点① ~被用者保険の適用拡大~
の記事の中で記載しましたが、短時間労働者の社会保険への加入要件の緩和に伴い、法の公布から3年以内に撤廃されることとされていた「賃金月額が88000円以上あること」という賃金要件撤廃の施行期日を定める政令が交付され、令和8年10月1日に決定されました。撤廃期日を定めた政令は、令和8年9月11日の官報に掲載されていますが、この政令の公布に伴って、令和8年10月1日以降社会保険に加入となる短時間労働者が増えることになります。その背景には令和8年10月1日から順次発効される最低賃金額の改定によって賃金月額が88,000円未満となる労働者が減少することから賃金要件はその効力を失うこととなることがあります。
賃金要件の撤廃は、今後予定されている企業規模要件の段階的緩和および最終的撤廃とともに短時間労働者の社会保険加入促進について、避けることのできない効果を発現してくるものと思われます。対象となる短時間労働者はその準備を進める必要があります。
令和8年9月11日官報
2026年09月17日 11:04

山口県の最低賃金が1,101円に改定され、令和8年10月8日から発効される予定です。

山口県の最低賃金額が、山口地方最低賃金審議会の答申を経て1,043円から58円引上げられ1,101円に改定されることになりました。
これは中央最低賃金審議会が示した引き上げ目安56円を2円上回る引上額です。
改定額の最高は東京都の1,280円、最低は宮崎県の1,085円、全国加重平均額は1,177円となっています。
山口県の改定額の発効予定日は令和8年10月8日とされていますので、発行日以降の賃金は改定後の金額以上で支払う必要があります。
最低賃金法はその第四条において、「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。」と規定していることから、最低賃金を下回る賃金を支払うことは法律で禁止されており、違反した場合には厳しい罰則が科せられますので、賃金計算および支払いに当たっては注意しなければなりません。
 
2026年09月09日 14:01

令和8年10月1日からパワハラ防止指針が改正されます。

令和4年4月から全ての企業に適用されている「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(いわゆるパワハラ防止指針)」が改正され、令和8年10月1日から自爆営業やカミングアウトの強要・禁止について、パワハラに該当し得るものとして明記されます。
自爆営業に関しては、会社や上司からの販売目標・ノルマの圧力を背景に労働者が自社の商品やサービスを自費で購入させられるという事例が問題視されたことから、パワハラに該当するものとして指針に明記されることになりました。
また、カミングアウトの強要・禁止に関しては、性的指向やジェンダーアイデンティティは本人の重要な個人情報であり、本人の意思に反して「公表しなさい」と強要することも、「絶対に誰にも言うな」と禁止することも、本人の人格や自己決定を不当に侵害し得るものであることから、これについてもパワハラに該当するものとして指針に明記されることになりました。
いづれの内容も従来の指針の「職場におけるパワーハラスメントの内容」に追記する形で表現されます。
○自爆営業についての記述
2 職場におけるパワーハラスメントの内容
⑺・・・・・・・・・
なお、職場におけるパワーハラスメントに該当すると考えられる以下の例については、行為者と当該言動を受ける労働者の関係性を個別に記載していないが、 ⑷にあるとおり、優越的な関係を背景として行われたものであることが前提である。
イ~ヘ
                                      
なお、職場におけるパワーハラスメントに該当すると考えられる以下の例については、行為者と当該言動を受ける労働者の関係性を個別に記載していないが、 ⑷にあるとおり、優越的な関係を背景として行われたものであることが前提である。
また、商品の買い取り強要等(事業主が労働者に対し、当該労働者の自由な意思に反して自社の商品・サービスを購入させる行為)に関連する言動も、⑴①から③までの要素を全て満たす場合には、職場におけるパワーハラスメントに該当する。
イ~ヘ
と、自爆営業がどのような行為であるかを明確にした上で、パワハラに該当することを明記しています。
 
○カミングアウトの強要・禁止についての記述
2 職場におけるパワーハラスメントの内容
⑺・・・・・・・・・
ロ 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
(イ)該当すると考えられる例
① 人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を行うことを含む。
                          
 
① 人格を否定するような言動を行うこと。相手の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動を行うことを含む。
 
2 職場におけるパワーハラスメントの内容
⑺・・・・・・・・・
 
ヘ 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
(イ)該当すると考えられる例
① 労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりすること。
② 労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること。
                             
 
② 労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること又は当該労働者が開示することを強要する若しくは禁止すること。
 
4 事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関し雇用管理上講ずべき措置の内容
⑷ ⑴から⑶までの措置と併せて講ずべき措置
 ⑴から⑶までの措置を講ずるに際しては、併せて次の措置を講じなければならない。 イ 職場におけるパワーハラスメントに係る相談者・行為者等の情報は当該相談者・行為者等のプライバシーに属するものであることから、相談への対応又は当該パワーハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること。なお、相談者・行為者等のプライバシーには、性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれるものであること。
                                    
 
なお、相談者・行為者等のプライバシーには、性的指向・ジェンダーアイデンティティや病歴、不妊治療等の機微な個人情報も含まれるものであること。
 
以上のように、自爆営業やカミングアウトの強要・禁止について、パワハラの一形態として指針に明記されることになります。これは近年問題視されている従来の典型的なパワハラだけでは捉えにくい行為について、指針上明らかにすることで事業主に周知啓発し、防止措置を講ずることを促すものです。今回の改正によって、ハラスメント対策をより強化しなければならないと言えるでしょう。
2026年08月26日 10:57

短時間・有期雇用労働者に関するルール変更(令和8年10月1日施行)

○短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(短時間・有期雇用労働法)施行規則の改正に伴う短時間・有期雇用労働者雇用に関するルールの変更
令和8年10月1日から、短時間・有期雇用労働者を雇い入れた時の労働条件明示事項として、現行の明示事項に加え、新たに「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる」旨の明示が必要になります。
短時間・有期雇用労働者の労働条件の明示については、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第六条に規定されていますが、今回の改正は法の改正ではなく、施行規則第二条の改正による変更です。
法第6条(労働条件に関する文書の交付等)
 事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間・有期雇用労働者に対して、労働条件に関する事項のうち労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のものであって厚生労働省令で定めるもの(次項及び第14条第1項において「特定事項」という。)を文書の交付その他厚生労働省令で定める方法(次項において「文書の交付等」という。)により明示しなければならない。
施行規則第二条 法第六条第一項の厚生労働省令で定める短時間・有期雇用労働者に対して明示しなければならない労働条件に関する事項は、次に掲げるものとする。
一 昇給の有無
二 退職手当の有無
三 賞与の有無
四 法第十四条第二項の規定*1による説明を求めることができる旨
五 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口
太字:今回の改正事項(新設)、五は従前の規定(四)を繰下げ
 
  
                 労働条件通知書(厚生労働省サンプル)
                                                                年  月  日
          殿
事業場名称・所在地
使用者職氏名
契約期間 期間の定めなし、期間の定めあり(  年  月  日~  年  月  日)
※以下は、「契約期間」について「期間の定めあり」とした場合に記入
1 契約の更新の有無
 [自動的に更新する・更新する場合があり得る・契約の更新はしない・その他(   )]
2 契約の更新は次により判断する。
  ・契約期間満了時の業務量   ・勤務成績、態度    ・能力
  ・会社の経営状況 ・従事している業務の進捗状況
・その他(                              )
3 更新上限の有無(無・有(更新  回まで/通算契約期間  年まで))
【労働契約法に定める同一の企業との間での通算契約期間が5年を超える有期労働契約の締結の場合】
本契約期間中に会社に対して期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込みをすることにより、本契約期間の末日の翌日( 年 月 日)から、無期労働契約での雇用に転換することができる。この場合の本契約からの労働条件の変更の有無( 無 ・ 有(別紙のとおり) )
【有期雇用特別措置法による特例の対象者の場合】
無期転換申込権が発生しない期間: Ⅰ(高度専門)・Ⅱ(定年後の高齢者)
Ⅰ 特定有期業務の開始から完了までの期間(   年  か月(上限10年))
Ⅱ 定年後引き続いて雇用されている期間
就業の場所 (雇入れ直後)           (変更の範囲)
従事すべき
業務の内容
(雇入れ直後)           (変更の範囲)
 
  【有期雇用特別措置法による特例の対象者(高度専門)の場合】
・特定有期業務(             開始日:    完了日:    )
始業、終業の時刻、休憩時間、就業時転換((1)~(5)のうち該当す
るもの一つに○を付けること。)、所定時間外労働の有無に関する事項
1 始業・終業の時刻等
 (1) 始業(   時   分) 終業(   時   分)
 【以下のような制度が労働者に適用される場合】
 (2) 変形労働時間制等;(  )単位の変形労働時間制・交替制として、次の勤務時間の組み合わせによる。
    始業( 時 分) 終業( 時 分) (適用日     )
    始業( 時 分) 終業( 時 分) (適用日     )
    始業( 時 分) 終業( 時 分) (適用日     )
  (3) フレックスタイム制;始業及び終業の時刻は労働者の決定に委ねる。
(ただし、フレキシブルタイム(始業) 時 分から  時 分、
(終業) 時 分から  時 分、
                     コアタイム         時 分から  時 分)
 (4) 事業場外みなし労働時間制;始業( 時 分)終業( 時 分)
 (5) 裁量労働制;始業( 時 分) 終業( 時 分)を基本とし、労働者の決定に委ねる。
○詳細は、就業規則第 条~第 条、第 条~第 条、第 条~第 条
2 休憩時間(  )分
3 所定時間外労働の有無
( 有 (1週  時間、1か月  時間、1年  時間),無 )
4 休日労働( 有 (1か月  日、1年  日), 無 )
休   日
及び
勤 務 日
・定例日;毎週  曜日、国民の祝日、その他(         )
・非定例日;週・月当たり  日、その他(          )
・1年単位の変形労働時間制の場合-年間  日
(勤務日)
毎週(      )、その他(      )
○詳細は、就業規則第 条~第 条、第 条~第 条
休   暇 1 年次有給休暇 6か月継続勤務した場合→     日
         継続勤務6か月以内の年次有給休暇 (有・無)
         → か月経過で  日
         時間単位年休(有・無)
2 代替休暇(有・無)
3 その他の休暇 有給(          )無給(          )
○詳細は、就業規則第 条~第 条、第 条~第 条
賃   金 1 基本賃金 イ 月給(     円)、ロ 日給(     円)
       ハ 時間給(    円)、
       ニ 出来高給(基本単価    円、保障給    円)
       ホ その他(     円)
       ヘ 就業規則に規定されている賃金等級等
 
 
 
  
 

2 諸手当の額又は計算方法
  イ(  手当    円 /計算方法:           )
  ロ(  手当    円 /計算方法:           )
    ハ(  手当    円 /計算方法:           )
  ニ(  手当    円 /計算方法:           )
3 所定時間外、休日又は深夜労働に対して支払われる割増賃金率
    イ 所定時間外、法定超 月60時間以内(   )%
              月60時間超 (   )%
          所定超 (   )%
  ロ 休日 法定休日(   )%、法定外休日(   )%
  ハ 深夜(   )%
4 賃金締切日(   )-毎月 日、(   )-毎月 日
5 賃金支払日(   )-毎月 日、(   )-毎月 日
6 賃金の支払方法(            )
 
  7 労使協定に基づく賃金支払時の控除(無 ,有(   ))
8 昇給( 有(時期、金額等        ) , 無 )
9 賞与( 有(時期、金額等        ) , 無  )
10 退職金( 有(時期、金額等      ) , 無 )
   
   
退職に関す
る事項
1 定年制 ( 有 (  歳) , 無 )
2 継続雇用制度( 有(  歳まで) , 無 )
3 創業支援等措置( 有(  歳まで業務委託・社会貢献事業) , 無 )
4 自己都合退職の手続(退職する  日以上前に届け出ること)
5 解雇の事由及び手続
○詳細は、就業規則第 条~第 条、第 条~第 条
 
そ の 他 ・社会保険の加入状況( 厚生年金 健康保険 その他(    ))
・雇用保険の適用( 有 , 無 )
中小企業退職金共済制度
(加入している , 加入していない)(※中小企業の場合)
・企業年金制度( 有(制度名           ) , 無 )
・次の窓口に対して通常の労働者との間の待遇の相違(内容・理由)等について説明を求めることができる。
部署名       担当者職氏名        (連絡先         )
・雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口
  
部署名       担当者職氏名        (連絡先         )
・その他(                                  )
 
・具体的に適用される就業規則名(         )
※以下は、「契約期間」について「期間の定めあり」とした場合についての説明です。
 労働契約法第18条の規定により、有期労働契約(平成25年4月1日以降に開始するもの)の契約期間が通算5年を超える場合には、労働契約の期間の末日までに労働者から申込みをすることにより、当該労働契約の期間の末日の翌日から期間の定めのない労働契約に転換されます。ただし、有期雇用特別措置法による特例の対象となる場合は、無期転換申込権の発生については、特例的に本通知書の「契約期間」の「有期雇用特別措置法による特例の対象者の場合」欄に明示したとおりとなります。
 
以上のほかは、当社就業規則による。就業規則を確認できる場所や方法(             )  
             
※ 本通知書の交付は、労働基準法第15条に基づく労働条件の明示及び短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法)第6条に基づく文書の交付を兼ねるものであること。
※ 労働条件通知書については、労使間の紛争の未然防止のため、保存しておくことをお勧めします。
 
*1:
第14条(事業主が講ずる措置の内容等の説明) 第二項 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに第6条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。

この施行規則の改正は、上記法第十四条の規定の実効性を担保するために行われたものといえます。
なお、第十四条中、第六条から前条(十三条)までの規定により措置を講ずべきこととされている事項とあるのは、以下の事項です。
第六条:労働条件に関する文書の交付等、第七条:就業規則の作成の手続、第八条:不合理な待遇の禁止、第九条:通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止、第十条:賃金、第十一条:教育訓練、第十二条:福利厚生施設、第十三条:通常の労働者への転換
 
○短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(同一労働同一賃金ガイドライン)の改正~新たに追加された内容~
短時間・有期雇用労働法は、その第八条・第九条において、同一企業内の正社員と短時間・有期雇用労働者との間で、待遇について不合理な相違を設けること、通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者について短時間・有期雇用労働者であることを理由として差別的取扱いをすることを禁止しています。同一労働同一賃金ガイドラインは不合理な待遇差・差別的取扱いについて、その考え方や具体例を示したものです。
今回このガイドラインが改正され、令和8年10月1日から適用されます。
第8条(不合理な待遇の禁止)
 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
 
第9条(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)
 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第11条第1項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。
 
以下に新たに追加された事項について記載します。

△各種手当について
1⃣賞与・退職手当
賞与・退職手当の目的には、労務の対価の後払い、功労報償等のさまざまな目的が含まれます。これらの目的が妥当するにもかかわらず、短時間・有期雇用労働者に対し、正社員との間の職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた内容を支給しない場合、不合理と認められる可能性があります。
このことがガイドラインの注釈として、次のように明示されました。
・賞与 賞与については、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的として、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の労働意欲の向上等の様々な性質及び目的が含まれうるものであるが、通常の労働者と同様に短時間・有期雇用労働者にも当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的が妥当するにもかかわらず、短時間・有期雇用労働者に対し、通常の労働者との間の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの相違に応じた均衡のとれた内容の賞与を支給せず、かつ、その見合いとして、労使交渉を経て、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的が妥当しない他の短時間・有期雇用労働者に比べ基本給を高く支給している等の事情もない場合、当該賞与の相違は不合理と認められるものに当たりうることに留意すべきである。
・退職手当 退職手当については、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的として、労務の対価の後払い、功労報償等の様々な性質及び目的が含まれうるものであるが、通常の労働者と同様に短時間・有期雇用労働者にも当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的が妥当するにもかかわらず、短時間・有期雇用労働者に対し、通常の労働者との間の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの相違に応じた均衡のとれた内容の退職手当を支給せず、かつ、その見合いとして、労使交渉を経て、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的が妥当しない他の短時間・有期雇用労働者に比べ基本給を高く支給している等の事情もない場合、当該退職手当の相違は不合理と認められるものに当たりうることに留意すべきである。
2⃣無事故手当
正社員と業務の内容が同一の短時間・有期雇用労働者には、正社員と同一の無事故手当を支給しなければなりません。
これがガイドラインに次のように記載されました。
・無事故手当 通常の労働者と業務の内容が同一の短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の無事故手当を支給しなければならない。
3⃣家族手当
労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者には、正社員と同一の家族手当を支給しなければなりません。
これがガイドラインに次のように記載されました。
・家族手当 労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の家族手当を支給しなければならない。(問題とならない例)
A社においては、通常の労働者であるXに対しては家族手当を支給しているが、労働契約の更新を繰り返していない等、相応に継続的な勤務が見込まれない有期雇用労働者であるYに対しては、家族手当を支給していない。
(問題となる例)
A社においては、通常の労働者であるXに対しては家族手当を支給しているが、労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる有期雇用労働者であるYに対しては、家族手当を支給していない。
(注)配偶者の収入要件があるいわゆる「配偶者手当」については、特に女性の短時間労働者の就業調整の要因となっていると指摘されていることから、各事業主において、労使の話合いによって、働き方に中立的な制度となるよう見直しを進めることが望まれる。
4⃣住宅手当
住宅手当が「転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給されるもの」である場合、正社員と同一の転居を伴う配置の変更がある短時間・有期雇用労働者には、正社員と同一の住宅手当を支給しなければなりません。
これがガイドラインに次のように記載されました。
・住宅手当 住宅手当であって、転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給されるものについて、通常の労働者と同一の転居を伴う配置の変更がある短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の住宅手当を支給しなければならない。
(問題とならない例)
A社においては、転居を伴う配置の変更が見込まれる通常の労働者であるXには住宅手当を支給している。一方で、有期雇用労働者であるYには転居を伴う配置の変更が見込まれないため、住宅手当を支給していない。
(問題となる例)
A社においては、転居を伴う配置の変更が見込まれることを理由として、通常の労働者であるXに対し、住宅手当を支給しており、当該変更が見込まれないことを理由として、有期雇用労働者であるYには住宅手当を支給していないが、A社では実態として通常の労働者に対しても、転居を伴う配置の変更を命じていない。
(注)住宅手当であって、転居を伴う配置の変更の有無にかかわらず支給されるものについても、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないことに留意すべきである。
5⃣福利厚生施設
通常の労働者と同一の事業所で働く短時間・有期雇用労働者には同一の福利厚生施設の利用を認めなければならないことは改正前にも記載されていましたが、福利厚生施設の料金・割引率等の利用条件について、不合理と認められる待遇差を設けてはならないことが追記されました。
このことがガイドラインに次のように記載されました。
・福利厚生施設 通常の労働者と同一の事業所で働く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の給食施設、休憩室及び更衣室の利用を認めなければならない。
また、福利厚生施設の利用料金・割引率等の利用条件についても短時間・有期雇用労働法第8条の適用を受けるものであり、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
6⃣病気休職
短時間労働者(有期雇用労働者である場合を除く。)には、通常の労働者と同一の病気休職の取得を認めなければならず、有期雇用労働者にも、労働契約が終了するまでの期間を踏まえて、病気休職の取得を認めなければならないことは改正前にも記載されていましたが、正社員に病気休職期間に係る給与の保障を行う場合には、労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者にも、正社員と同一の給与の保障を行わなければならないことが追記されました。
このことがガイドラインに次のように記載されました。
短時間労働者(有期雇用労働者である場合を除く。)には、通常の労働者と同一の病気休職の取得を認めなければならない。また、有期雇用労働者にも、労働契約が終了するまでの期間を踏まえて、病気休職の取得を認めなければならない。
さらに、通常の労働者に病気休職期間に係る給与の保障を行う場合には、労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の給与の保障を行わなければならない。
(問題とならない例)
A社においては、労働契約の期間が1年である有期雇用労働者であるXについて、病気休職の期間は労働契約の期間が終了する日までとしている。
(問題となる例)
A社においては、通常の労働者であるXには、病気休職期間に係る給与の保障を行っているが、労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる有期雇用労働者であるYには、病気休職期間に係る給与の保障を行っていない。
7⃣夏季冬季休暇
短時間・有期雇用労働者にも、正社員と同一の夏季冬季休暇を付与しなければなりません。
このことがガイドラインに次のように記載されました。
・夏季冬季休暇
短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の夏季冬季休暇を付与しなければならない。
(問題となる例)
A社においては、繁忙期に限定された短期間の勤務ではない有期雇用労働者であるXに対し、通常の労働者と同一の夏季冬季休暇を付与していない。
8⃣褒賞
褒賞が「一定の期間勤続した労働者に付与するもの」である場合、正社員と同一の期間勤続した短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の褒賞を付与しなければなりません。
このことがガイドラインに次のように記載されました。
褒賞であって、一定の期間勤続した労働者に付与するものについて、通常の労働者と同一の期間勤続した短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の褒賞を付与しなければならない。

△各種手当・福利厚生に共通する留意事項について
1⃣通常の労働者の待遇引き下げによる待遇差の解消
正社員と短時間・有期雇用労働者との間の不合理な待遇差を解消する際には、正社員の労働条件を不利益に変更するのではなく、短時間・有期雇用労働者の労働条件の改善を図ることが求められます。
このことがガイドラインに次のように記載されました。
・短時間・有期雇用労働法及び労働者派遣法に基づく通常の労働者と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者との間の不合理と認められる待遇の相違の解消等の目的は、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者の待遇の改善であり、その目的に鑑みれば、当該待遇の相違の解消等に当たっては、通常の労働者の労働条件を不利益に変更することなく、短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者の労働条件の改善を図ることが求められる。
2⃣定年後に継続雇用された有期雇用労働者
正社員と定年後継続雇用の有期雇用労働者との間の待遇差が不合理と認められるか否かは、それぞれの待遇の性質・目的に照らして判断されるものであるため、定年後継続雇用の有期雇用労働者であることだけで、直ちに不合理ではないと認められるものではありません。
このことがガイドラインに次のように記載されました。
・定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者についても、短時間・有期雇用労働法の適用を受けるものである。このため、通常の労働者と定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者との間の待遇の相違については、実際に両者の間に職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情の相違がある場合は、その相違に応じた待遇の相違は許容される。さらに、有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることは、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かを判断するに当たり、短時間・有期雇用労働法第8条のその他の事情として考慮される事情に当たりうる。定年に達した後に有期雇用労働者として継続雇用する場合のそれぞれの待遇について、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められる様々な事情が総合的に考慮されて、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かが判断されるものと考えられる。したがって、当該有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることのみをもって、直ちに通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理ではないと認められるものではない。
3⃣正社員人材確保のための待遇の相違
正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間の待遇の違いの要因として、「正社員人材の確保や定着を図る」等の目的があったとしても、待遇差が不合理と認められるか否かは、その待遇の他の性質・目的にも照らして判断されるものであり、「正社員人材の確保や定着を図る」といった目的だけで直ちに不合理ではないと当然に認められるものではありません。
このことがガイドラインに次のように記載されました。
・通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に基本給、賞与、各種手当等の待遇に相違がある場合において、その要因として当該待遇を行う目的に「通常の労働者としての職務を遂行しうる人材の確保及びその定着を図る」等の目的があったとしても、当該待遇の相違が不合理と認められるか否かは、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の他の性質及び当該待遇を行う他の目的にも照らして適切と認められるものの客観的及び具体的な実態に照らして判断されるものであり、「通常の労働者としての職務を遂行しうる人材の確保及びその定着を図る」等の目的があることのみをもって直ちに当該待遇の相違が不合理ではないと当然に認められるものではない。
4⃣無期雇用フルタイム労働者等へのガイドラインの適用
無期雇用フルタイム労働者について、パートタイム・有期雇用労働法に規定するパートタイム・有期雇用労働者には該当しないが、これらの労働者との労働契約を締結・変更する際の「均衡の考慮」に当たっては、ガイドラインの趣旨が考慮されるべきとされています。
このことがガイドラインに次のように記載されました。
所定労働時間が通常の労働者と同一であり、かつ、事業主と期間の定めのない労働契約を締結している労働者については、短時間・有期雇用労働法第2条第3項に規定する短時間・有期雇用労働者に該当しないが、次の事項に留意する必要がある。
1労働契約法第3条第2項の規定により、労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとされていること。
2均衡の考慮に当たっては、この指針の趣旨が考慮されるべきであること。
5⃣短時間・有期雇用労働法第八条の「その他の事情」の明確化
行政通達で示されている「その他の事情」の具体例(職務の成果、能力、経験、合理的な労使慣行等)をガイドラインにも記載し、事業主が短時間・有期雇用労働者の意向を十分に考慮せず一方的に待遇を決定した場合、当該待遇の相違が不合理と認められる事情とされうることが明確にされています。
このことがガイドラインに次のように記載されました。
・短時間・有期雇用労働法第8条におけるその他の事情については、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲に関連する事情に限定されるものではない。職務の成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、事業主と労働組合や過半数代表者等との間の交渉といった労使交渉の経緯や結果等の諸事情がその他の事情として想定されるものであり、考慮すべきその他の事情があるときに考慮すべきものである。また、事業主が短時間・有期雇用労働法第14条第2項の規定に基づき通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の待遇の相違の内容及び理由について十分な説明を行わなかったと認められる場合や、事業主が待遇の体系に係る議論において短時間・有期雇用労働者の意向を十分に考慮せず一方的に短時間・有期雇用労働者の待遇を決定した場合には、当該事実も短時間・有期雇用労働法第8条におけるその他の事情に含まれ、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められることを基礎付ける事情として考慮されうる。
 
○事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措
置についての指針(雇用管理指針)の改正~新たに追加された内容~
短時間・有期雇用労働法は、その第三条において「事業主は適正な労働条件の確保、教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改善及び通常の労働者への転換の推進に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図り、当該短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができるように努めるものとする。」と規定しています。
雇用管理指針は事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために、短時間・有期雇用労働法で定めるもののほかに必要な事項を定めたものです。
今回この指針が改正され、令和8年10月1日から適用されます。
以下に新たに追加された事項について記載します。
 
1⃣短時間・有期雇用労働者への職業能力開発促進法適用の明示
指針は、事業主が短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等を講ずるに当たって、適用される法令を列挙していますが、改正により、職業能力開発促進法の適用があることを明示しました。
職業能力開発促進法は、その第四条において、
第四条(関係者の責務)事業主は、その雇用する労働者に対し、必要な職業訓練を行うとともに、その労働者が自ら職業に関する教育訓練又は職業能力検定を受ける機会を確保するために必要な援助その他その労働者が職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発及び向上を図ることを容易にするために必要な援助を行うこと等によりその労働者に係る職業能力の開発及び向上の促進に努めなければならない。
と規定しています。今回の改正により、短時間・有期雇用労働者にも職業能力開発促進法が適用されることが明記されましたので、事業主はこれを認識し、遵守しなければなりません。
第二事業主が講ずべき短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等を講ずるに当たっての基本的考え方
事業主は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等を講ずるに当たって、次の事項を踏まえるべきである。
<雇用管理指針>
一労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)、最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)、労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)、職業能力開発促進法(昭和四十四年法律第六十四号)、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)、労働者災害補償保険法(昭和二十二年法律第五十号)、雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号)等の労働に関する法令は短時間・有期雇用労働者についても適用があることを認識しこれを遵守しなければならないこと。
2⃣公正な評価に基づいた賃金の決定
短時間・有期雇用労働者の賃金を決定するに当たっては、職務の内容、職務の成果、意欲、能力または経験その他の就業の実態に関する事項を公正に評価し、昇給に反映する等、公正な評価に基づき決定することが望ましく、例示として短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間で共通する職務等に応じ、共通する賃金制度または評価項目を設けることが指針に新設されています。
<雇用管理指針>
第二 三 短時間・有期雇用労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を公正に評価し、昇給に反映する等、公正な評価に基づき賃金を決定することが望ましいこと。例えば、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間で共通する職務等に応じ、共通する賃金制度又は評価項目を設けることが考えられること。
3⃣短時間・有期雇用労働者の過半数を代表する者の要件等に関する記載
短時間・有期雇用労働法ではその第七条(就業規則の作成の手続)において、
 
第七条(就業規則の作成の手続)事業主は、短時間労働者に係る事項について就業規則を作成し、又は変更しようとするときは、当該事業所において雇用する短時間労働者の過半数を代表すると認められるものの意見を聴くように努めるものとする。
第二項 前項の規定は、事業主が有期雇用労働者に係る事項について就業規則を作成し、又は変更しようとする場合について準用する。この場合において、「短時間労働者」とあるのは、「有期雇用労働者」と読み替えるものとする。
 
と規定しており、短時間・有期雇用労働者に関する事項について就業規則の作成・変更を行う際には、短時間・有期雇用労働者の過半数を代表する者の意見を聴くように努めなければなりません。
この短時間・有期雇用労働者の過半数代表者に関連して以下の三点が指針に新設されています。
  • 短時間・有期雇用労働者の過半数代表者となることができる労働者の要件
<雇用管理指針>
第三 一 短時間・有期雇用労働者の過半数を代表する者
  • 短時間・有期雇用労働者の過半数を代表する者(短時間・有期雇用労働者法第七条第一項(同条第二項において準用する場合を含む。以下この㈠及び㈢において同じ。)に規定する短時間労働者又は有期雇用労働者の過半数を代表すると認められるものをいい、事業所に短時間・有期雇用労働者の過半数で組織する労働組合がある場合における当該労働組合を除く。以下この一において同じ。)は、次のいずれにも該当する者とする。ただし、イに該当する者がいない事業所において同条一項の意見を聴く場合にあっては、ロに該当する者とする。
イ労働基準法第四十一条第二号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
ロ短時間・有期雇用労働者法第七条第一項の規定により意見を聴取される者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、事業主の意向に基づき選出されたものでないこと。
 
つまり、短時間・有期雇用労働者の過半数を代表する者の要件は、労働基準法施行規則第六条の二(過半数代表者)第一項、第二項と同じであることが明示されました。
 
  • 不利益取扱いの禁止
短時間・有期雇用労働者の過半数代表者に関することを理由として解雇等の不利益取扱いをしてはならないことが明示されています。
<雇用管理指針>
第三 一 短時間・有期雇用労働者の過半数を代表する者
  • 事業主は、労働者が短時間・有期雇用労働者の過半数を代表する者であること若しくは短時間・有期雇用労働者の過半数を代表する者になろうとしたこと又は短時間・有期雇用労働者の過半数を代表する者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
 
不利益取扱いについても、労働基準法施行規則第六条の二第三項と同じであることが記載されています。
 
  • 事務遂行のための必要な配慮
短時間・有期雇用労働者の過半数代表者がその事務作業を円滑に行うことができるよう必要な配慮(事務スペースや事務機器の提供等)をしなければならないことが明示されています。
<雇用管理指針>
第三 一 短時間・有期雇用労働者の過半数を代表する者
  • 事業主は、短時間・有期雇用労働者の過半数を代表する者が短時間・有期雇用労働者法第七条第一項の規定による意見の聴取に関する事務を円滑に遂行することができるよう必要な配慮を行わなければならない。当該配慮としては、例えば、短時間・有期雇用労働者の過半数を代表する者が短時間・有期雇用労働者の意見の集約等を行うに当たって必要となる事務スペースや事務機器の提供(イントラネットや社内電子メールを利用させることを含む。)を行うこと等が考えられる。
 
これに関しても、労働基準法施行規則第六条の二第四項の規定と同様に記載されています。
4⃣福利厚生施設の利用に関する便宜の供与
短時間・有期雇用労働法はその第十二条(福利厚生施設)において、
第十二条(福利厚生施設)事業主は、通常の労働者に対して利用の機会を与える福利厚生施設であって、健康の保持又は業務の円滑な遂行に資するものとして厚生労働省令で定めるものについては、その雇用する短時間・有期雇用労働者に対しても、利用の機会を与えなければならない。
そして、施行規則第五条で、「法第十二条の厚生労働省令で定める福利厚生施設は次に掲げるものとする。一給食施設、二休憩室、三更衣室」とし、福利厚生施設の利用について規定しています。今回の改正で、その他の福利厚生施設に関しても具体例を挙げ、短時間・有期雇用労働者に対して利用に関する便宜の供与の措置を講ずるように配慮しなければならないことが明記されました。
<雇用管理指針>
第三 三 福利厚生施設
事業主は、短時間・有期雇用労働者について、業務が適正かつ円滑に行われるようにするため、短時間・有期雇用労働者法第十二条の福利厚生施設のほか、事業主が設置及び運営し、通常の労働者に対して利用の機会を与える物品販売所、病院、診療所、浴場、理髪室、保育所、図書館、講堂、娯楽室、運動場、体育館、保養施設、駐車場等の施設の利用に関する便宜の供与の措置を講ずるように配慮しなければならないものとする。
5⃣正社員転換推進措置について
短時間・有期雇用労働法はその第十三条(通常の労働者への転換)において、
第十三条(通常の労働者への転換)事業主は、通常の労働者への転換を推進するため、その雇用する短時間・有期雇用労働者について、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない。
一通常の労働者の募集を行う場合において、当該募集に係る事業所に掲示すること等により、その者が従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の当該募集に係る事項を当該事業所において雇用する短時間・有期雇用労働者に周知すること。
二通常の労働者の配置を新たに行う場合において、当該配置の希望を申し出る機会を当該配置に係る事業所において雇用する短時間・有期雇用労働者に対して与えること。
三一定の資格を有する短時間・有期雇用労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を設けることその他の通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずること。
と、規定しています。今回の改正では、法第十三条各号の転換推進措置実施の際には、「正社員への転換のための制度を設けるとともに複数の措置を講ずることが望ましいこと」「労働契約の更新の際の面談等の機会を利用し、または電子メール等を活用すること等により、正社員転換推進措置の対象となる短時間・有期雇用労働者の意向を確認し、その意向に配慮しなければならないこと」が記載されています。
<雇用管理指針>
第三 四 通常の労働者への転換の推進
  • 事業主は、短時間・有期雇用労働者法第十三条各号のいずれかの措置を講ずるに当たっては、通常の労働者への転換のための制度を設けるとともに複数の措置を講ずることが望ましい。
  • 事業主は、短時間・有期雇用労働者法第十三条各号のいずれかの措置を講ずるに当たっては、労働契約の更新の際の面談等の機会を利用し、又は電子メール等を活用すること等により、当該措置の対象となる短時間・有期雇用労働者の意向を確認し、その意向に配慮しなければならないものとする。             6⃣待遇差についての説明
    ・説明方法について
短時間・有期雇用労働法はその第十四条第二項(事業主が講ずる措置の内容等の説明)において、
第十四条(事業主が講ずる措置の内容等の説明)
第二項 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに第六条から前条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。
と規定しています。今回の改正では、改正前の「口頭により説明することを基本とし、資料を用いる場合には、資料を交付する等の方法でも差支えない」の記述を変更・追記し、「資料を活用し、口頭により説明する方法又は説明すべき内容を総て記載した資料を交付する等の方法」のいずれかの方法とし、口頭により説明する方法による場合には、説明に活用した資料等を交付することが望ましいこととしています。
また、労働者の個人情報等の漏洩の観点から資料を交付することが困難な場合であっても、短時間・有期雇用労働者から求めがあったときには資料を閲覧させる等の工夫をするように努めることが記載されています。
<雇用管理指針>
第三 五 ㈣ 説明の方法
事業主は、短時間・有期雇用労働者がその内容を理解することができるよう、資料を活用し、口頭により説明する方法又は説明すべき事項を全て記載した短時間・有期雇用労働者が容易に理解できる内容の資料を交付する等の方法により説明するものとする。また、資料を活用し、口頭により説明する場合には、事業主は、説明に活用した資料その他の関連資料を交付することが望ましい。さらに、労働者の個人情報等の漏えいを防止する等の観点から当該資料を交付することが困難な場合であっても、短時間・有期雇用労働者から事後に求めがあったときは当該資料を閲覧させる等の工夫をするように努めるものとする。
・説明の求めがない場合の周知
短時間・有期雇用労働法はその第十㈣条第二項(事業主が講ずる措置の内容等の説明)は、「その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、・・・・当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならない。」と規定していることから、説明の求めがあったときを前提とした規定です。今回の改正では、説明の求めがない場合には短時間・有期雇用労働者が説明を受ける機会を逸失し、紛争に発展することが考えられるため、説明の求めがない場合であっても、労働契約の更新時等に、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇差の内容・理由に関する分かりやすい資料を交付することや、待遇の相違の内容・理由に関する説明を求めることができることを周知するといった対応を行うことが望ましいことが記載されています。
<雇用管理指針>
第三 五 ㈤ 説明の求めがない場合における周知等
事業主は、短時間・有期雇用労働者の自らの待遇に関する納得性の向上が当該待遇に関する紛争の防止に資することを踏まえ、短時間・有期雇用労働者から説明の求めがない場合であっても、労働契約の更新の際等に、当該短時間・有期雇用労働者に対し、短時間・有期雇用労働者が待遇の相違の内容及び理由について容易に理解できる内容の資料を交付することや、待遇の相違の内容及び理由について説明を求めることができることを周知すること等が望ましい。
7⃣労使の話し合いの促進
事業主が短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置を講じるに当たっては、そのコミュニケーションの方法として、「関係労使の十分な話合いの機会を提供する等」と抽象的な表現がされていましたが、今回の改正では、短時間・有期雇用労働者との話合いの機会を設けること又はアンケートを実施すること等という具体的な方法を示し、そしてその方法は短時間・有期雇用労働者の意見を反映させるために執るものであるというその目的が追記・明示されています。
<雇用管理指針>
第三 六 労使の話合いの促進
  •  事業主は、短時間・有期雇用労働者の就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮して雇用管理の改善等に関する措置等を講ずるに当たっては、短時間・有期雇用労働者との話合いの機会を設けること又はアンケートを実施すること等により、当該事業主における関係労使の十分な話合いの機会を提供する等短時間・有期雇用労働者の意見を聴く機会を設け、当該意見を反映させるための適当な方法を工夫するように努めるものとする。
  • 短時間・有期雇用労働者の過半数代表者に関することを理由として解雇等の不利益取扱いの禁止
改正前は指針の第三 四 ㈠に示されていた過半数代表者に関する不利益取扱いの禁止が削除されました。
これは改正後指針の第三 一 ㈡に同事項が新設されたことによるものです。
  • 雇用管理の改善等に関する情報の公開
正社員への転換制度の内容、転換実績や教育訓練に関する取組状況に関する情報を短時間・有期雇用労働者に明示するよう努め、公的機関のウェブサイト又は自ら管理するウェブサイトへの掲載その他の適切な方法により定期的に公表することが望ましいことが記載されています。
<雇用管理指針>
第三 九 雇用管理の改善等に関する情報の公表等
事業主は、通常の労働者への転換のための制度の内容及び当該制度による転換の実績並びに職務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練等に関する取組状況に関する情報を短時間・有期雇用労働者に明示するよう努めるとともに、公的機関のウェブサイト又は自ら管理するウェブサイトへの掲載その他の適切な方法により定期的に公表することが望ましい。
 
2026年08月21日 11:08

令和8年10月1日~ 求職活動等におけるセクシャルハラスメント対策義務化!

○求職活動等におけるセクシャルハラスメントとは?
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律が令和8年10月1日から改正され、新たに第十三条、第十四条に求職活動等におけるセクシャルハラスメントが定義されます。
(求職活動等における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第十三条 事業主は、求職者その他これに類する者として厚生労働省令で定めるもの*1(以下この項及び次項並びに次条において「求職者等」という。)によるその求職活動その他求職者等の職業の選択に資する活動(以下この項及び同条第一項において「求職活動等」という。)において行われる当該事業主が雇用する労働者*2による性的な言動により当該求職者等の求職活動等が阻害されることのないよう、当該求職者等からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が事業主による求職者等からの前項の相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
3 厚生労働大臣は、前二項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
4 第四条第四項及び第五項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。この場合において、同条第四項中「聴くほか、都道府県知事の意見を求める」とあるのは、「聴く」と読み替えるものとする。
(求職活動等における性的な言動に起因する問題に関する国、事業主及び労働者の責務)
第十四条 国は、求職者等の求職活動等を阻害する前条第一項に規定する言動を行ってはならないことその他当該言動に起因する問題(以下この条において「求職活動等における性的言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。
2 事業主は、求職活動等における性的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が求職者等に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。
3 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、求職活動等における性的言動問題に対する関心と理解を深め、求職者等に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
4 労働者は、求職活動等における性的言動問題に対する関心と理解を深め、求職者等に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。
○求職活動等におけるセクシャルハラスメントとは
求職活動等におけるセクシャルハラスメントとは、法第十三条第一項より、求職活動等において行われる事業主が雇用する労働者による性的な言動により求職者等の求職活動等が阻害されることをいいます。

㈠求職者等とは 
*1:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則 第二条の三( 法 第 十 三 条 第 一 項 の 厚 生 労 働 省 令 で 定 め る 者 )
法 第 十 三 条 第 一 項 の 厚 生 労 働 省 令 で 定 め る 者 は 、 求 職 者 以 外 の 者 で あ つ て 、 次 に 掲 げ る 者 と す る 。
一 事 業 主 の 実 施 す る 労 働 者 の 採 用 に 資 す る 活 動 に 参 加 す る 者
二 教 育 実 習 、 看 護 実 習 そ の 他 の 実 習 を 受 け る 者
㈡労働者とは
*2:いわゆる正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、 契約社員等いわゆる非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する労働者の全てをいう。
また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者(派遣先事業主)も、自ら雇用する労働者と同様に、防止措置を講じることが必要。
㈢求職活動等とは
法第十三条第三項に基づいて定められた「指針」(事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針)において以下の様に定義されています。
「求職活動等」とは、求職者が行う求職活動や求職者に類する者が行う職業の選択に資する活動を指し、例えば以下のものが含まれる。
(例)
・ 企業の採用面接への参加 ・ 企業の就職説明会への参加 ・ 企業の雇用する労働者への訪問 ・ インターンシップへの参加 ・ 教育実習、看護実習等の実習の受講
なお、SNS等のオンラインを介したものやオンライン上で行われるものも含まれる。また、事業主が雇用する労働者が通常就業している場所で行われるものに限らない。
㈣性的な言動とは
「指針」において以下のように定義されています。
「性的な言動」とは、性的な内容の発言及び性的な行動を指し、この「性的な内容の発言」には、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等が、「性的な行動」には、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布すること等が、それぞれ含まれる。 また、当該言動を行う者には、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)も想定されるため、これらの者による「性的な言動」についても必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい。

○求職活動等におけるセクシャルハラスメントの典型例
「求職活動等におけるセクシュアルハラスメント」とは、求職活動等において行われる求職者等の意に反する性的な言動により求職者等の求職活動等が阻害され、能力の発 揮に重大な悪影響が生じる等当該求職者等が求職活動等を行う上で看過できない程度 の支障が生じることであって、その状況は多様ですが、指針においては典型的な例として、次のようなものが挙げられています。
イ 少人数の説明会において、労働者が求職者等の腰、胸等に触ったため、当該求職者 等が苦痛に感じてその求職活動等の意欲が低下していること。
ロ 企業が実施するインターンシップにおいて、労働者が求職者等に対して性的な冗談やからかいを意図的かつ継続的に行ったため、当該求職者等が苦痛に感じてインターンシップ中の活動が手につかないこと。
ハ 企業が実施するインターンシップにおいて、性的な内容を含むポスターの掲示や画 面の表示等を行っているため、求職者等が苦痛に感じてインターンシップ中の活動が 手につかないこと。
ニ 面接中、面接官を務める労働者から性的な事実に関する質問を受け、求職者が苦痛 に感じてその求職活動の意欲が低下していること。
ホ 求職者等が労働者への訪問を行った際、当該労働者に性的な関係を求められ、当該 求職者等が苦痛に感じてその求職活動等の意欲が低下していること。
ヘ インターンシップ中に労働者が求職者等を執拗に私的な食事に誘い、当該求職者等 が苦痛に感じてその求職活動等の意欲が低下していること。

○求職活動等におけるセクシャルハラスメントに関する国、事業主、労働者の責務
㈠国の責務
先出の男女雇用機会均等法第十四条第一項に求職活動等におけるセクシャルハラスメントに対する国の責務が定められています。
第十四条第一項 国には、
・「求職活動等における性的言動問題」*3に対する事業主その他国民一般の関心と理解を促すために、広報活動、啓発活動を行うこと
が求められています。
*3:求職者等の求職活動等を阻害するセクシャルハラスメントを行ってはならないことその他求職活動等における性的言動に起因する問題
㈡事業主の責務
先出の男女雇用機会均等法第十三条第二項、第十四条第二項、第三項に求職活動等におけるセクシャルハラスメントに対する事業主の責務が定められています。
第十三条 第二項 事業主には、
・労働者が事業主による求職者等からのセクシャルハラスメントについての相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、その労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと
第十四条 第二項
・自身が雇用する労働者の求職活動等におけるセクシャルハラスメントに対する関心と理解を促すこと
・労働者が求職者等に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をすること
・国の講じる求職活動等におけるセクシャルハラスメントに対する措置に協力すること
第十四条 第三項
・事業主自身が求職活動等におけるセクシャルハラスメントに対する関心と理解を深めること
・事業主自身が求職者等に対する言動に必要な注意を払うこと
が求められています。
㈢労働者の責務
先出の男女雇用機会均等法第十四条第四項に求職活動等におけるセクシャルハラスメントに対する労働者の責務が定められています。
第十四条 第四項 労働者には、
・求職活動等におけるセクシャルハラスメントに対する関心と理解を深めること
・求職者等に対する言動に必要な注意を払うこと
・事業主の講じる求職活動等におけるセクシャルハラスメントに対する措置に協力すること
が求められています。

○求職活動等におけるセクシャルハラスメント防止のために事業主が講じなければならない措置の内容
先出の男女雇用機会均等法第十三条第一項に、事業主は求職活動等におけるセクシャルハラスメントを防止するために必要な措置を講じなければならないことが規定されています。
この講ずべき措置の内容について、指針において次のとおりその詳細が示されています。
㈠事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
①求職活動等におけるセクシャルハラスメントを行ってはならない旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
②求職活動等におけるセクシャルハラスメントを行った者については、厳正に対処する旨の方針及び対処の内容を、管理監督者を含む労働者に周知すること。
③求職活動等に関するルール*4をあらかじめ明確化し、労働者及び求職者等に周知・啓発すること。
*4:面談時間及び場所の指定、実施体制、やりとりに用いるSNSの種類の指定等、面談等を行う際の規則等
㈡相談に応じ、適切に対応するための必要な体制の整備
①相談への対応のための窓口(以下「相談窓口」という。)をあらかじめ定め、求職者等に周知すること 求職者等は人事担当者への相談をためらうことが考えられるため、相談窓口の担当者は人事担当者以外の者を指定することもあり得る。
㈢事後の迅速かつ適切な対応
①事実関係を迅速かつ正確に確認すること 
②求職活動等におけるセクシャルハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
③求職活動等におけるセクシャルハラスメントが生じた事実が確認できた場合には、行為者に対する措置を適正に行うこと。
④改めて求職活動等におけるセクシャルハラスメントに関する方針の周知・啓発等再発防止に向けた措置を講ずること。求職活動等におけるセクシャルハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても、同様の再発防止措置を講ずること。
㈣㈠から㈢までの措置と併せて講ずべき措置
①相談への対応又はセクシャルハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者及び求職者等に対して周知すること。
②労働者が求職活動等におけるセクシャルハラスメントに関する事実関係の確認等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
 
○求職活動等におけるセクシャルハラスメントを防止するために事業主が行うことが望ましい取組
指針は、先述の求職活動等に対するセクシャルハラスメント防止のために事業主が講じなければならない措置の内容に加え、事業主が行うことが望ましい取組として、以下の内容を挙げています。
①求職者等が所属する機関との連携
・大学や専門学校等、求職者等が所属する機関から求職活動等におけるセクシャルハラスメントの相談に関する情報が提供された場合には、それらと連携し、適切な対応を行うことが望ましい。
②顧客等からのセクシャルハラスメントへの対応
事業主は、求職者等から、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(カスタマーハラスメントにおける顧客等)による求職者等に対するセクシュアルハラスメントに類すると考えられる相談があった場合には、その内容を踏まえて、求職者等に対するセクシャルハラスメント防止のための雇用管理上の措置も参考にしつつ、必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい。
 
○求職活動等におけるパワーハラスメントに類する行為等に関し行うことが望ましい取組
指針は、前出の事業主及び労働者の責務の趣旨に関連し、求職活動等におけるパワーハラスメントに類する行為、求職活動等における妊娠、出産等に関するハラスメントに類する行為及び求職活動等における育児休業等に関するハラスメントに類する行為(以下「求職活動等におけるパワーハラスメントに類する行為等」という。)について、事業主は、当該事業主が雇用する労働者の求職者等に対する言動についても必要な注意を払うよう配慮するとともに、事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)自らと労働者も、求職者等に対する言動について必要な注意を払うよう努めることが望ましいと、他のハラスメントに対する防止措置を行うことが望ましいとしています。 こうした責務の趣旨も踏まえ、事業主は、求職活動等におけるセクシュアルハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、求職活動等におけるパワーハラスメントに類する行為等についても、同様の方針を併せて示すことが望ましく、求職者等から求職活動等におけるパワーハラスメントに類する行為等に関すると考えられる相談があった場合には、求職者等に対するセクシャルハラスメント防止のための雇用管理上の措置も参考にしつつ、必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましいとしています。
また、求職者等から、顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者による求職活動等におけるカスタマーハラスメントに類すると考えられる相談があった場合には、その内容を踏まえて、求職者等に対するセクシャルハラスメント防止のための雇用管理上の措置も参考にしつつ、 必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましいとしています。
2026年07月31日 10:03

令和8年10月~!カスタマーハラスメント対策が義務化されます。

○カスタマーハラスメントとは?
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律が令和8年10月1日から改正され、新たに第三十三条、第三十四条にカスタマーハラスメントが定義されます。
(職場における顧客等の言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等)
第三十三条 事業主は、職場*1において行われる①顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(次条第五項において「顧客等」という。)の言動であって、②その雇用する労働者*2が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの(以下この項及び次条第一項において「顧客等言動」という。)により③当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、労働者の就業環境を害する当該顧客等言動への対応の実効性を確保するために必要なその抑止のための措置その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
 3 事業主は、他の事業主から当該他の事業主が講ずる第一項の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、これに応ずるように努めなければならない。
4 厚生労働大臣は、前三項の規定に基づき事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。
5 第三十一条第四項及び第五項の規定は、指針の策定及び変更について準用する。
 
(職場における顧客等の言動に起因する問題に関する国、事業主、労働者及び顧客等の責務)
第三十四条 国は、労働者の就業環境を害する顧客等言動を行ってはならないことその他当該顧客等言動に起因する問題(以下この条において「顧客等言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、各事業分野の特性を踏まえつつ、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。
2 事業主は、顧客等言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。
3 事業主(その者が法人である場合にあっては、その役員)は、自らも、顧客等言動問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
4 労働者は、顧客等言動問題に対する関心と理解を深め、他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。
5 顧客等は、顧客等言動問題に対する関心と理解を深めるとともに、労働者に対する言動が当該労働者の就業環境を害することのないよう、必要な注意を払うように努めなければならない。
職場において行われる①②③の要素全てを満たすものをカスタマーハラスメントといいます。
*1:事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所を指し、当該労働者が通常就業している場所以外の場所であっても、当該労働者が業務を遂行する場所については、「職場」に含まれる。(例)・取引先の事務所・取引先と打合せをするための飲食店・顧客等の自宅等であっても、労働者が業務を遂行する場所であればこれに該当する
*2:いわゆる正規雇用労働者のみならず、パートタイム労働者、 契約社員等いわゆる非正規雇用労働者を含む、事業主が雇用する労働者の全てをいう。
また、派遣労働者については、派遣元事業主のみならず、労働者派遣の役務の提供を受ける者(派遣先事業主)も、自ら雇用する労働者と同様に、防止措置を講じることが必要。
 
㈠「顧客等」とは顧客(今後商品の購入やサービスの利用等をする可能性がある潜在的な顧客も含む。)、取引の相手方(今後取引する可能性のある者も含む。)、施設の利用者(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等の施設を利用する者をいい、今後利用する可能性のある者も含む。)その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者を指します。
(例)第三十三条第四項の厚生労働大臣が定める指針に例示
・ 事業主が販売する商品の購入やサービスの利用をする者
・ 事業主の行う事業に関する内容等に関し問い合わせをする者
・ 取引先の担当者
・ 企業間での契約締結に向けた交渉を行う際の担当者
・ 施設・サービスの利用者及びその家族
・ 施設の近隣住民
㈡「その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えた」言動とは
社会通念に照らし、当該顧客等の言動の内容が契約内容からして相当性を欠くもの、又は手段や態様が相当でないものとされています。その判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、当該言動の行為者とされる者(以下「行為者」という。)との関係性等)を総合的に考慮することが適当であり、「言動の内容」、「手段や態様」の一方のみが社会通念上許容される範囲を超える場合でもこれに該当し得るとされています。なお、社会通念上許容される範囲を超えるかどうかの判断に当たっては、事業主又は労働者の側の不適切な対応がこの言動の原因や背景となっている場合もあることから、このことも考慮する必要があります。
社会通念上許容される範囲を超えた言動の典型例として、指針は以下のものを挙げています。
【言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの】
① そもそも要求に理由がない又は商品
・サービス等と全く関係のない要求・ 性的な要求や、労働者のプライバシーに関わる要求をすること。
② 契約等により想定しているサービスを著しく超える要求
・ 契約内容を著しく超えたサービスの提供を要求すること。
③ 対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求
・ 契約金額の著しい減額の要求をすること。
④ 不当な損害賠償要求
・ 商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求をすること。

【手段や態様が社会通念上許容される範囲を超えるもの】
①身体的な攻撃(暴行、傷害等)
・ 殴る、蹴る、叩く等の暴行を行うこと。 ・ 物を投げつけること。 ・ わざとぶつかること。 ・ つばを吐きかけること。
② 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
・ 店舗の物を壊すことをほのめかす発言やSNS等のインターネット上へ悪評を投稿することをほのめかす発言によって労働者を脅すこと。 ・ SNS等のインターネット上へ労働者のプライバシーに係る情報の投稿等をすること。 ・ 労働者の人格を否定するような言動を行うこと。(相手の性的指向、ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動を行うことを含む)・土下座を強要すること・盗撮や無断での撮影をすること。・労働者の性的指向、ジェンダーアイデンティティ等の機微な
個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の者に暴露すること又は当該労働者が開示することを強要する若しくは禁止すること。
③ 威圧的な言動
・ 大きな声をあげて労働者や周囲を威圧すること。 ・ 反社会的な言動を行うこと。
④継続的、執拗な言動
・ 同様の質問を執拗に繰り返すこと。・当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な責め立てをすること。・同様の電子メール等を執拗に繰り返し送りつけること。
⑤拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)
・ 長時間に渡る居座りや電話で労働者を拘束すること。

㈢「労働者の就業環境が害される」とは
顧客等の言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指します。 この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況でこの言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当とされています。 この判断基準について、言動に対する感じ方は人それぞれですので、その判断を難しくするものだと思います。とはいえ、常識的かつ平衡感覚を以て考慮すればよいものと考えます。なお、この言動の頻度や継続性は考慮しますが、強い身体的又は精神的苦痛を与える態様の言動の場合は、1回の言動であっても、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じ、就業環境を害することはあり得るとされています。

○カスタマーハラスメントに関する国、事業主、労働者及び顧客等の責務

㈠国の責務
先出の労働施策総合推進法第三十四条第一項にカスタマーハラスメントに対する国の責務が定められています。
第三十四条第一項 国には、
・
・「カスタマーハラスメント問題」*3に対する事業主その他国民一般の関心と理解を促すために、各事業分野の特性を踏まえて広報活動、啓発活動を行うこと
が求められています。
*3:労働者の就業環境を害するカスタマーハラスメントを行つてはならないことその他カスタマーハラスメントに起因する問題

㈡事業主の責務
先出の労働施策総合推進法第三十三条第二項、第三項、第三十四条第二項、第三項にカスタマーハラスメントに対する事業主の責務が定められています。
第三十三条 第二項 事業主には、
・労働者がカスタマーハラスメントについての相談を行ったこと又は事業主によるその相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、その労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないこと
第三十三条 第三項 
・他の事業主から他の事業主が講じるカスタマーハラスメントに関する措置の実施について、必要な協力を求められた場合には、これに応じること
第三十四条 第二項
・自身が雇用する労働者のカスタマーハラスメントに対する関心と理解を促すこと
・労働者が他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をすること
・国の講じるカスタマーハラスメントに対する措置に協力すること
第三十四条 第三項
・事業主自身のカスタマーハラスメントに対する関心と理解を深めること
・事業主自身の他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うこと
が求められています。

㈢労働者の責務
先出の労働施策総合推進法第三十四条第四項にカスタマーハラスメントに対する労働者の責務が定められています。
第三十四条 第四項 労働者には、
・カスタマーハラスメントに対する関心と理解を深めること
・他の事業主が雇用する労働者に対する言動に必要な注意を払うこと
・事業主の講じるカスタマーハラスメントに対する措置に協力すること
が求められています。

㈣顧客等の責務
先出の労働施策総合推進法第三十四条第五項にカスタマーハラスメントに対する顧客等の責務が定められています。
第三十四条 第五項 顧客等には、
・カスタマーハラスメントに対する関心と理解を深めること
・労働者の就業環境を害することのないように労働者に対する言動に必要な注意を払うこと
が求められています。

○カスタマーハラスメント防止のために事業主が講じなければならない措置の内容

先出の労働施策総合推進法第三十三条第一項に、事業主はカスタマーハラスメントを防止するために必要な措置を講じなければならないことが規定されています。
この講ずべき措置の内容について、先出の労働施策総合推進法第三十三条第四項に規定された指針において次のとおりその詳細が示されています。

㈠事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
①職場におけるカスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発すること。
②職場におけるカスタマーハラスメントの内容及びあらかじめ定めた職場におけるカスタマーハラスメントへの対処の内容*4を、管理監督者を含む労働者に周知するこ と。
*4:対処内容として以下のものが例示されています。
・管理監督者等に報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐこと
・可能な限り労働者を一人で対応させないこと、当該労働者に代わって管理監督者等が対応すること
・顧客等とのやり取りを録音・録画すること(録音・録画の際は個人情報保護に留意が必要)
・労働者から十分な説明を行った上で、なお繰り返しの要求が続く場合には、一 定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりすること
・暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること
・現場対応が困難な場合においては、本社・本部等へ情報共有を行い、指示を仰ぐこと
・法的な手続が必要な場合には、法務部門等と連携し、弁護士へ相談すること 等

㈡相談に応じ、適切に対応するための必要な体制の整備
①相談への対応のための窓口(以下「相談窓口」という。)をあらかじめ定め、労働者に周知すること 他のハラスメント窓口と一体的設置も可
②相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること

㈢事後の迅速かつ適切な対応
①事実関係を迅速かつ正確に確認すること 行為者が、他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主である場合には、必要に応じて、他の事業主に事実関係の確認への協力を求めることも含まれる。
②職場におけるカスタマーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと
③改めて職場におけるカスタマーハラスメントに関する方針の周知・啓発、必要時には、職場におけるカスタマーハラスメントの発生の原因や背景となった商品・サービス・接客等における問題や顧客等とのコミュニケーションの不足などの改善等、再発防止に向けた措置を講ずること

㈣対応の実効性を確保するために必要なカスタマーハラスメントの抑止のための措置
①労働者に対し過度な要求を繰り返すなど特に悪質と考えられるものへの対処の方針*5をあらかじめ定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、当該方針において定めた対処を行うことができる体制を整備すること
*5:指針では、特に悪質と考えられるものへの対処として以下のようなものを例示しています。
・暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る言動については、警察へ通報すること
・行為者に対して警告文を発出すること
・法令の制限内において行為者に対して商品の販売、サービスの提供等をしないこと
・行為者に対して店舗及び施設等への出入りを禁止すること
・民事保全法(平成元年法律第91号)に基づく仮処分命令を申し立てること
ただし、対処の内容を検討するに当たっては、各業法等による定めがある場合等、業種・業態等により必要な対応が異なる場合があることに留意し、状況に応じた方針を定めることが効果的とされています。

㈤㈠から㈣までの措置と併せて講ずべき措置
①相談への対応又はカスタマーハラスメントに係る事後の対応に当たっては、相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずるとともに、その旨を労働者に対して周知すること
②カスタマーハラスメントの相談等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発すること
 
なお、職場におけるカスタマーハラスメント対策を講ずる際は、消費者の権利や、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律において、障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供義務等が定められていることから、顧客等の権利の侵害や事業者としての義務の懈怠になることのないよう、事案に応じて適切な対応をする必要があります。

○他の事業主の講ずる雇用管理上の措置の実施に関する協力
事業主の責務で記載しましたが、指針においては、法第三十三条第三項の規定により、事業主は、自身が雇用する労働者又は事業主自身による他の事業主の雇用する労働者に対する職場におけるカスタマーハラスメントに関し、他の事業主から、事実関係の確認等の雇用管理上の措置の実施に関し必要な協力を求められた場合には、次の措置を講ずるよう努めなければならないとされています。
① 事業主は、他の事業主からの協力の求めに応ずるように努めなければならない。 また、同項の規定の趣旨に鑑みれば、事業主が、他の事業主から雇用管理上の措置 への協力を求められたことを理由として、当該事業主に対し、当該事業主との契約を解除する等の不利益な取扱いを行うことは望ましくないとされています。
 ②事業主は、他の事業主からの協力の求めに応じて、労働者へ事実関係の確認等を行うに当たっては、これに協力した労働者に対して、解雇その他不利益な取扱いを行わな い旨を定め、労働者に周知・啓発することが望ましい。 加えて、事実関係の確認により、職場におけるカスタマーハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、事業主は、就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずることが望ましい。

○カスタマーハラスメントを防止するために事業主が行うことが望ましい取組
指針は、先述のカスタマーハラスメント防止のために事業主が講じなければならない措置の内容に加え、カスタマーハラスメントを防止するために事業主が行うことが望ましい取組として、以下の内容を挙げています。
①カスタマーハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための取組
・労働者が自社の商品やサービスをよく理解し、顧客等への対応力の向上を図るために研修等を行うこと
・労働者が顧客等への理解を深めるために必要な取組を行うこと
この取組を行うに当たっては、労働者が自社の商品やサービスをよく理解し、顧客等への対応力の向上を図ることは、職場におけるカスタマーハラスメントの被害者になることを防止する上で重要であることや、顧客等からの社会通念上許容される範囲で行われる正当な申入れについては、職場におけるカスタマーハラスメントには該当せず、労働者が、こうした正当な申入れを踏まえて真摯に業務を遂行する意識を持つことも重要であることに留意することが必要とされています。
②雇用管理上の措置を講じる際に、必要に応じて、労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めること
③カスタマーハラスメントは、業種・業態等によりその被害の実態や必要な対応も異なると考えられることから、業種・業態等における被害の実態や業務の特性等を踏まえて、それぞれの状況に応じた必要な取組を進めること
④労働者が取引の相手方に対して職場におけるカスタマーハラスメントに係る言動を 行う場合もあることから、他の事業主が雇用する労働者に対する言動について、職場におけるカスタマーハラスメントを行ってはならない旨の方針を示すこと

○自らの雇用する労働者以外の者に対する顧客等の言動に関して行うことが望ましい取組
①事業主は、事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発におけるカスタマーハラスメントには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針の明確化等を行う際に、職場におけるその事業主が雇用する労働者以外の者(他の事業主が雇用する労働者及び個人事業主等の労働者以外の者*6)に対する顧客等の言動についても、同様の方針を併せて示すこと
②事業主が雇用する労働者以外の者(他の事業主が雇用する労働者及び個人事業主等の労働者以外の者)からカスタマーハラスメントに類すると考えられる相談があった場合には、その内容を踏まえて、雇用管理上の措置も参考にしつつ、必要に応じて適切な対応を行うように努めること
*6:(例)小売店において、商品のメーカーに雇用されている労働者(小売店に雇用されている労働者ではない)が商品販売のために勤務している場合等
2026年07月28日 10:17

令和8年8月、9年8月からの高額療養費制度の見直し

○高額療養費とは?
高額療養費制度は高額な医療費に伴う経済的負担を軽減する仕組みで、一月に医療機関に支払った額が定められた上限額を超えた場合に、上限を超えて支払った額を払い戻す健康保険法第百十五条に規定されている制度です。
第百十五条(高額療養費) 療養の給付について支払われた一部負担金の額又は療養(食事療養及び生活療養を除く。次項において同じ。)に要した費用の額からその療養に要した費用につき保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費として支給される額に相当する額を控除した額(次条第一項において「一部負担金等の額」という。)が著しく高額であるときは、その療養の給付又はその保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費の支給を受けた者に対し、高額療養費を支給する。
2 高額療養費の支給要件、支給額その他高額療養費の支給に関して必要な事項は、療養に必要な費用の負担の家計に与える影響及び療養に要した費用の額を考慮して、政令*1で定める。
今回の改正は、この第二項の「家計」の後に「、とりわけ長期にわたって継続的に療養を受ける者の家計」が加えられ、改正法として令和8年8月1日に施行されることになっています。
この改正は、近年の高齢化、医療の高度化、高額医薬品の開発等医療費が増大する要因が多々ある中において、医療費の伸びに対応した制度の改革は避けることのできない課題となっているものの、高額な医療を必要とする状態になった場合には、高額療養費は重要なセーフティネット機能を果たすものであることを考慮すると、将来に亘って維持する必要があり、また低所得者や長期の療養を要する制度利用者の経済的負担に配慮したものでなければならないという考えを背景に行われるものです。特に改革の検討に当たっては、患者団体など制度の当事者やその意見を伝える立場の委員の参画があったことから長期療養者への影響を適切に考慮し、十分に配慮することが重視され、「、とりわけ長期にわたって継続的に療養を受ける者の家計」の文言が追加されたものです。
*1:健康保険法第百十五条第二項の政令は、健康保険法施行令を指します。施行令中高額療養費については、第四十一条から第四十三条に規定されていますが、かなりの長文であるため、掲載は割愛します。この長文を読解するのは困難を伴うことから、厚生労働省は実務者向けに整理した一覧表を作成していますので、以下に掲載します。
※高額療養費自己負担限度額早見表(令和8年8月見直し前)を参照(厚生労働省「高額療養費制度に関する参考資料」)
 
○令和8年8月から変更を予定している高額療養費制度の内容
①低所得者の負担に配慮しつつ、一人当たりの医療費の伸びに応じて月額負担上限額を見直しています。
月単位の上限額の計算式の金額を変更していますが、計算結果が大きく増額することがないように配慮した見直しとなっているということです。
②長期療養者への配慮の観点から、「多数回該当」*2の金額を維持するとともに、長期にわたり治療を継続している人が不安に感じる「将来の医療費負担」に見通しを立てやすくなるよう、新たに年単位の上限額(年間上限)を設けています。
多数回該当の金額が据え置きとなっていることから、長期療養者の影響への配慮を窺うことができます。また、年単位の上限額が新設されていて、年間の医療費負担を計画的に見通すことができる仕組みが導入されています。
*2:過去12か月以内に3回以上、上限に達した場合は、4回目から「多数回」該当となり、上限額が下がる仕組み
※高額療養費自己負担限度額早見表(令和8年8月~令和9年7月)を参照(厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」)

○令和9年8月から変更を予定している高額療養費制度の内容
①応能負担という観点に基づき、所得区分が細分化されます。
従来の所得区分がさらに3段階細分化され、旧同区分内の上位所得者には相応の負担増となっています。
令和8年の①とともに制度の持続可能性を意図した見直しといえるでしょう。
②低所得者への配慮の観点から、「年収200万円未満の課税世帯」の多数回該当の金額が引き下げられます。
年収区分がさらに下方へ3段階細分化され、年収200万円未満の多数回該当の金額が44,400円⇒34,500円で△9,900円となり、低所得者の負担が軽減されます。それとともに年収200万円以上370万円未満の人には相応の負担増となっています。
※高額療養費自己負担限度額早見表(令和9年8月~)を参照(厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」)
 
○まとめ
高額療養費制度は、高齢化、医療の高度化、高額薬剤の開発等によって、医療費の増加が見込まれる昨今において、その持続可能性を図るという観点から負担増の見直しを行わなければならない情勢と言えます。しかし一方で、高額療養費制度は社会のセーフティネットを支える重要な柱であることも否定することはできません。
上記のような観点から、高額療養費制度を将来的に維持するという視点で国は様々な見直しを検討し、実施するようです。ただし、その検討の根底にあるのは、低所得者や長期療養者への配慮です。制度の持続可能性だけを眼中にして、弱者への配慮を欠いては社会保障制度が成り立たないことから、応能負担という観点で負担増を図りながらも、弱者への負担増は極力抑制するという構造を執ることで苦心しながらも見直しを決定したように思います。今回は、その内容について概要を記載しましたが、改正が段階的に行われるため、最後に全体像を捉えやすいように、段階的比較表を掲示します。ご参照ください。
※高額療養費制度の段階的改正比較表(厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」)
 
2026年07月10日 16:05

労働契約法第二章 労働契約の成立及び変更解説

労働契約法(第二章 労働契約の成立及び変更)
労働契約法第二章労働契約の成立及び変更は、第六条(労働契約の成立)~第十三条(法令及び労働協約と就業規則との関係)で構成されています。
労働契約が労働者と使用者の合意により成立すること、労使の合意により労働契約の内容である労働条件を変更できることを定めています。そして、合意以外の形式として、例外的に就業規則の変更によって労働契約の内容が規律され、または変更されるという規定が定められています。
また、改正前に労基法に定められていた就業規則の最低基準効を引き継ぎ、就業規則と法令及び労働協約との関係についても規定されています。
ここでは、第六条(労働契約法の成立及び変更)と第七条(労働契約の内容と就業規則)について記載します。
 
○労働契約の成立
労働契約が、①労働者が使用者に使用されて労働(指揮命令に従った労務提供)すること、②使用者がこれに対して賃金を支払う(労務の対償としての賃金支払)ことの二つの要件について労働者と使用者が合意した場合に成立することを第六条は定めています。
民法は雇用について、「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」と規定しています。この民法の規定は労働契約に該当することから労契法第六条が規定されています。
 
第六条(労働契約の成立)
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。
労働契約が成立するのは、①②の合意があった時です。民法によると契約は「契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。」とされています。このことは労働契約においても当てはまるものですので、労働契約法は①②について当事者が合意することを労働契約成立の要件としているのです。
つまり、労働者が①②を示して契約の申込みをし、これに対して使用者が承諾をする、または逆に使用者が①②を示して契約の申込みをし、これに対して労働者が承諾をすることによって労働契約は成立するものです。
「合意することによって成立する」について、労働契約は、 労働契約の締結当事者である労働者及び使用者の合意のみにより成立するものである。したがって、労働契約の成立の要件としては、契約内容について書面を交付することまでは求められないものである。 また、法第六条の労働契約の成立の要件としては、労働条件を詳細に定めていなかった場合であっても、労働契約そのものは成立し得るものである。と通達されています。
すなわち、労働契約法が定める労働契約の成立要件としては、抽象的な労務提供と賃金支払で足り、例えば、使用者が労働の内容や賃金額について具体的に明示せず、後日の決定に委ねるとしても、①②について合意すれば労働契約自体は成立するということです。ただし、労働者がどのような種類・内容の仕事なのか、報酬はどの程度のものが支払われるのか不明確な状態で合意の意思表示をすることは、まず考えられないため、そのような状況で契約が成立することは、あったとしても極稀であると思われます。
 
○労働契約の内容と就業規則
労働契約の成立については、労使の合意によって成立するものですが、その合意は労働条件のすべてについてされたものではなく、それらの一部についての合意にすぎないものです。日本における労働契約では、合意した条件以外の詳細な労働条件は定められず、就業規則によって統一的に条件設定が行われてきました。つまり、就業規則の記載事項が、実際上、労働契約の内容として取り入れられるという運用がされてきました。
しかし、就業規則で定める労働条件と労働契約の内容である労働条件との法的関係については、従来は法令上明らかにされていませんでした。つまり、使用者が一方的に定める就業規則が、何故に、またいかなる条件の下に、労働契約の内容としての意義を持つようになるのかについて、法令に定められていなかったのです。
そこで労働契約法第七条において、上記従来の慣習や学説、判例等の蓄積を整理して、労働契約の成立場面における就業規則と労働契約との法的関係について規定されたものです。
第七条(労働契約の内容と就業規則)
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条(就業規則違反の労働契約)に該当する場合を除き、この限りでない。
第七条について、通達はその内容を以下のように説明しています。
・就業規則で定める労働条件が労働契約の内容となるための要件
第七条は、労働契約において労働条件を詳細に定めずに労働者が就職した場合において、①「合理的な労働条件が定められている就業規則」であること及び②「就業規則を労働者に周知させていた」ことという2要件を満たしている場合には、就業規則で定める労働条件が労働契約の内容を補充し、「労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件による」という法的効果が生じることを規定したものです。
これは、労働契約の成立についての合意はあるものの、労働条件は詳細に定めていない場合であっても、就業規則で定める労働条件によって労働契約の内容を補充することにより、労働契約の内容を確定するものであるということです。
・労働者及び使用者が労働契約を締結する場合との記述について
法第七条は労働契約の成立場面について適用されるものであり、既に労働者と使用者との間で労働契約が締結されているが就業規則は存在しない事業場において新たに就業規則を制定した場合については適用されないものです。また、就業規則が存在する事業場で使用者が就業規則の変更を行った場合については、法第十条(就業規則による労働契約の内容の変更)の問題となるものです。
・合理的な労働条件について
「合理的な労働条件」は、個々の労働条件について判断されるものであり、就業規則において合理的な労働条件を定めた部分については同条の法的効果が生じ、合理的でない労働条件を定めた部分については同条本文の法的効果が生じないこととなるものです。
「合理的な労働条件」とは、就業規則による労働条件の統一的・画一的という要請に反しないものであれば合理性ありといえ、その目的や内容が、従業員の大多数の利益に反するものでない程度に正当であれば、合理性ありと判断できる。また、合理性は「企業の人事管理上の必要性があり、労働者の権利・利益を不当に制限していなければ肯定される。との見解が示されています。
就業規則に定められている事項であっても、例えば、就業規則の制定趣旨や根本精神を宣言した規定、労使協議の手続に関する規定等労働条件でないものについては、法第七条本文によっても労働契約の内容とはなりません。
・法第七条の就業規則とは
労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称をいい、労働基準法第八十九条の「就業規則」と同様ですが、法第七条の「就業規則」には、常時10人以上の労働者を使用する使用者以外の使用者が作成する労働基準法第八十九条では作成が義務付けられていない就業規則も含まれます。
・周知とは
① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
② 書面を労働者に交付すること
③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
等の方法により、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておくことをいいます。このように周知させていた場合には、労働者が実際に就業規則の存在や内容を知っているか否かにかかわらず、法第七条の「周知させていた」に該当するものです。
なお、労働基準法第百六条の「周知」は、労働基準法施行規則第五十二条の二により、①から③までのいずれかの方法によるべきこととされていますが、法第七条の「周知」は、これらの3方法に限定されるものではなく、実質的に判断されるものです。
・労働者に周知させていたとは
その事業場の労働者及び新たに労働契約を締結する労働者に対してあらかじめ周知させていなければならないものであり、新たに労働契約を締結する労働者については、労働契約の締結と同時である場合も含まれるものです。
・労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分
法第七条は、就業規則により労働契約の内容を補充することを規定したものであることから、同条本文の規定による法的効果が生じるのは、労働契約において詳細に定められていない部分についてであり、「就業規則の内容と異なる労働条件」を合意していた部分については、同条ただし書により、法第十二条に該当する場合(合意の内容が就業規則で定める基準に達しない場合)を除き、その合意が優先するものです。
 
○労働契約の内容の変更
労働契約の締結の際には、労使が合意することで成立することが第六条で示されています(合意の原則)が、第八条ではこの合意の原則が、さらに労働契約の内容である労働条件の変更の際にも適用されることが定められています。
第八条 労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。
労働契約においては、使用者が事実上、優越的地位にあることから労働条件を一方的に引き下げようとする動機が働くことがあり、このような労働契約の変更の場面においては、労働者の意思が蔑ろにされやすいものです。
このことに対して、第八条は労働者と使用者が「合意」するという要件を満たした場合に労働契約の内容である労働条件を変更できるという法的効果が生じることを規定したものです。
つまり、成立した契約について、一方の当事者がその一方の意思によって変更することは認められないということを規定しています。なお、条文では「その合意により、・・・変更することができる。」との記載です。これは、「労働条件を変更することは可能ですよ。ただしその場合には合意が必要ですよ。」と労働条件が労使の合意によって変更されるものであることを確認したものであって、合意の必要性を強調しています。この合意については、口頭でもできるもので、書面を交付することまでは求められていません。 
○就業規則による労働契約の内容の変更
労働契約法第八条によって、労働契約の内容である労働条件は合意によらなければ変更することができないのが原則です。このことは、その労働条件が就業規則で定められている場合も同様で、第九条は労働者と合意することなく、就業規則を変更するという手段によって、労働契約の内容である労働条件を変更することはできないことを規定しています。あくまでも合意が必要であり、就業規則の変更という単独手段による一方的変更はできないのです。
第九条 使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
ただし、九条条文には「不利益に」の文言が付されているのが気になるところです。これについては、不利益な変更は合意なしに就業規則の変更によって行うことはできず、また有利な変更であっても合意なしに就業規則の変更によって行うことはできないのは同じです。前者は第九条、後者は第八条の規制を受けてできないということになります。しかし、有利な変更については、労働条件が良い方向へ変わるということですので、労働者からの異論は出ず、争う余地がありません。つまり黙示の合意という位置づけとなり、第八条の合意の原則によって合意のない就業規則の変更による変更はできないのが原則ですが、事実上は可能ということになるのです。
更に第九条は、そのただし書において、合意によることなく労働条件の不利益な変更を可能にするという「例外」があることを第十条に委ねる構造になっています。
第十条 使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
この第八条、第九条、第十条はややこしく、難解であるため整理しますと以下のようになります。
第八条:契約は合意で変更が原則⇒第九条:不利益変更の禁止+就業規則による一方的変更の制限⇒第十条:不利益変更の場合+変更手続きの合理性=就業規則変更による一方的変更が可能(例外)
  1. 原則:合意で変更(第8条) 2.合意なし → 就業規則だけでは不可(第9条) 3.ただし例外的に合意のない就業規則変更による変更が可能(第10条)
つまり、自由に変えられるのは「合意」がある場合(不利益・有利共)で、合意のない一方的変更はNG(有利は事実上可能)ですが、合理的手続きが行われることで例外として一方的変更がOK(不利益)となります。
第九条について、通達はその内容を以下のように説明しています。
・合意のない就業規則変更による労働条件の不利益変更禁止とその例外
法第八条の労働契約の変更についての「合意の原則」に従い、使用者が労働者と合意することなく就業規則の変更により労働契約の内容である労働条件を労働者の不利益に変更することはできないという原則を確認的に規定したものです。
法第九条ただし書は、法第十条の場合は、法第九条本文に規定する原則の例外であることを規定したものです。
・法第九条の就業規則とは
労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称をいい、労働基準法第八十九条の「就業規則」と同様ですが、法第九条の「就業規則」には、常時10人以上の労働者を使用する使用者以外の使用者が作成する労働基準法第八十九条では作成が義務付けられていない就業規則も含まれます。
・法第九条の「労働者の不利益」については、個々の労働者の不利益をいうものです。
なお、第十条について、通達はその内容を以下のように説明しています。
・法第十条の法的効果発生の要件
「就業規則の変更」という方法によって「労働条件を変更する場合」において、使用者が「変更後の就業規則を労働者に周知させ」たこと及び「就業規則の変更」が「合理的なものである」ことという要件を満たした場合に、労働契約の変更についての「合意の原則」の例外として、「労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによる」という法的効果が生じることを規定したものです。
・労働条件変更の方向
就業規則の変更による労働条件の変更が労働者の不利益となる場合に適用されるものです。なお、就業規則に定められている事項であっても、労働条件でないものについては、法第十条は適用されません。
・就業規則変更の範囲
「就業規則の変更」には、就業規則の中に現に存在する条項を改廃することのほか、条項を新設することも含まれます。
・「就業規則」及び「周知」とは
「就業規則」とは、労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称をいい、労働基準法第八十九条の「就業規則」と同様であるが、法第十条の「就業規則」には、常時10人以上の労働者を使用する使用者以外の使用者が作成する労働基準法第八十九条では作成が義務付けられていない就業規則も含まれます。
法第十条の「周知」とは、例えば、
① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
② 書面を労働者に交付すること
③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること等の方法により、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知り得るようにしておくことをいうものです。このように周知させていた場合には、労働者が実際に就業規則の存在や内容を知っているか否かにかかわらず、法第十条の「周知させていた」に該当するものです。
なお、労働基準法第百六条の「周知」は、労働基準法施行規則第五十二条の二により、①から③までのいずれかの方法によるべきこととされているが、法第十条の「周知」は、これらの3方法に限定されるものではなく、実質的に判断されます。
・法第十条本文の合理性判断の考慮要素
  • 法第十条本文の「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況」は、就業規則の変更が合理的なものであるか否かを判断するに当たっての考慮要素として例示したものであり、個別具体的な事案に応じて、これらの考慮要素に該当する事実を含め就業規則の変更に係る諸事情が総合的に考慮され、合理性判断が行われることとなるものです。
  • 法第十条本文の「労働者の受ける不利益の程度」については、実際に紛争となる事例は、就業規則の変更により個々の労働者に不利益が生じたことに起因するものであり、個々の労働者の不利益の程度をいうものです。
また、法第十条本文の「変更後の就業規則の内容の相当性」については、就業規則の変更の内容全体の相当性をいうものであり、変更後の就業規則の内容面に係る制度変更一般の状況が広く含まれるものです。
  • 法第十条本文の「労働条件の変更の必要性」は、使用者にとっての就業規則による労働条件の変更の必要性をいうものです。
  • 法第十条本文の「労働組合等との交渉の状況」は、労働組合等事業場の労働者の意思を代表するものとの交渉の経緯、結果等をいうものです。
「労働組合等」には、労働者の過半数で組織する労働組合その他の多数労働組合や事業場の過半数を代表する労働者のほか、少数労働組合や、労働者で構成されその意思を代表する親睦団体等労働者の意思を代表するものが広く含まれます。
  • 法第十条本文の「その他の就業規則の変更に係る事情」は、「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況」を含め就業規則の変更に係る諸事情が総合的に考慮されることをいうものです。
法第十条本文の合理性判断の考慮要素と判例法理との関係については、次のとおり(省略)同条本文は、判例法理に沿ったものです。
第四銀行事件最高裁判決においては、(省略)
したがって、法第十条の規定は判例法理に沿った内容であり、判例法理に変更を加えるものではありません。
大曲市農業協同組合事件最高裁判決においては、(省略)法第十条の規定は、この判例法理についても変更を加えるものではありません。
みちのく銀行事件最高裁判決においては、(省略)法第十条の規定は、この判例法理についても変更を加えるものではありません。
・就業規則変更の合理性の主張立証責任
就業規則の変更が法第十条本文の「合理的」なものであるという評価を基礎付ける事実についての主張立証責任は、従来どおり、使用者側が負うものです。
・法第十条の法的効果発生の時期
「当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする」という法的効果が生じるのは、同条本文の要件を満たした時点であり、通常は、就業規則の変更が合理的なものであることを前提に、使用者が変更後の就業規則を労働者に周知させたことが客観的に認められる時点です。
・法第十条ただし書について
「就業規則の変更によっては変更されない労働条件」として合意していた部分については、第十条ただし書により、法第十二条に該当する場合(合意の内容が就業規則で定める基準に達しない場合)を除き、その合意が優先するものです。
・法第七条ただし書について
法第7条ただし書の「就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分」については、将来的な労働条件について
  • 就業規則の変更により変更することを許容するもの
  • 就業規則の変更ではなく個別の合意により変更することとするもの
のいずれもがあり得ますが、①の場合には法第十条本文が適用され、②の場合には同条ただし書が適用されるものです。
 
○就業規則の変更に係る手続
就業規則による労働条件の変更については、第十条のとおり、「変更後の就業規則を労働者に周知させ」ることが手続きとしての要件とされていました。
第十一条においては、その他に労働基準法第八十九条・第九十条でも定められている内容を遵守しなければならないことを規定しています。
第十一条 (就業規則の変更に係る手続)
就業規則の変更の手続に関しては、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第八十九条及び第九十条の定めるところによる。
<労働基準法>
第八十九条(作成及び届出の義務) 
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
(各号省略)
第九十条 (作成の手続)
使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
つまり、労働契約法第十条は労働者への周知と就業規則の合理性を要件として、就業規則の変更により労働契約の内容である労働条件を変更することができる場合について規定していますが、労働契約法第十一条は、労働基準法においても就業規則の変更の際に必要となる手続きが規定されていることからその手続きをとることが重要であることを明確にしたものです。
その手続きは①常時10人以上の労働者を使用する使用者は、変更後の就業規則を所轄労働基準監督署長に届出なければならないこと、②就業規則の変更について過半数労働組合等の意見を聴かなければならず、届出の際に、その意見を記した書面を添付しなければならないことです。
ここで特徴的なのは、就業規則の変更により労働条件を変更する場合の要件として「周知」は第十条において明確に定められているのに対して、「意見聴取・届出」は第十一条において就業規則の変更に係る手続きとしてその存在を確認している程度であることです。
それでは、労働契約法においては、「意見聴取・届出」を重要視していないのかとも思えますが、そうではないようです。
その証拠に「労働基準法第八十九条及び第九十条に規定する就業規則に関する手続は、法第十条本文の法的効果を生じさせるための要件ではないものの、就業規則の内容の合理性に資するものである。
このため、法第十一条において、就業規則の変更の手続は、労働基準法第八十九条及び第九十条の定めるところによることを規定し、それらの手続が重要であることを明らかにしたものであること。」
「労働基準法第八十九条及び第九十条の手続が履行されていることは、法第十条本文の法的効果を生じさせるための要件ではないものの、同条本文の合理性判断に際しては、就業規則の変更に係る諸事情が総合的に考慮されることから、使用者による労働基準法第八十九条及び第九十条の遵守の状況は、合理性判断に際して考慮され得るものであること。」
と、「意見聴取・届出」は就業規則の変更により労働条件を変更する場合の要件として第十条で「周知」と並んで規定されている「就業規則の内容の合理性」判断に考慮されるべき重要な手続きであることが通達されています。
 
○就業規則違反の労働契約
労働基準法では労働契約法制定まではその第九十三条(効力)において、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」と規定されていましたが、労働契約法制定に伴って、第九十三条(労働契約との関係)は「労働契約と就業規則との関係については、労働契約法(平成19年法律第128号)第十二条の定めるところによる。」と改正されました。
そして、労働契約法はその第十二条において、改正前の労働基準法第九十三条と同一の条文で規定されました。
第十二条 (就業規則違反の労働契約)
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
このことは、労基法にも労働契約法にも同じ内容の規定を定めているということですが、労基法は労契法に移管しただけでは十分とせず、労働条件の最低基準を定めることでその向上を図ろうする労基法の趣旨を重視して労基法にも同規定を残したものです。
 
○法令及び労働協約と就業規則との関係
労働基準法第九十二条(就業規則と法令及び労働協約との関係)は「就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。」と、就業規則と法令・労働協約の関係について規定しています。これに関連して労働契約法は、その第十三条において同趣旨の規定を設けています。
第十三条(法令及び労働協約と就業規則との関係)
就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。
就業規則が法令に反してはならないこと及び労働組合と使用者との間の合意により締結された労働協約は使用者が作成する就業規則よりも優位に立つことは、法理上当然であり、就業規則は法令又は労働協約に反してはならないものです。
一方労契法では、第七条、第十条及び第十二条において、それぞれの定める一定の場面に就業規則で定める労働条件が労働契約の内容となることを規定しています。しかし、就業規則が法令又は労働協約に反している場合においても就業規則で定める労働条件が労働契約の内容となることは適当ではないことから、第十三条において、法令又は労働協約に反する就業規則の効力について規定したものです。
第十三条について、通達はその内容を以下のように説明しています。
・法第十三条は、就業規則で定める労働条件が法令又は労働協約に反している場合には、その労働条件は労働契約の内容とはならないことを規定したものです。
なお、法第十三条は、労働基準法第九十二条第一項と同趣旨の規定であり、就業規則と法令又は労働協約との関係を変更するものではありません。
・法第十三条の「就業規則」とは、労働者が就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について定めた規則類の総称をいい、労働基準法第八十九条の「就業規則」と同様であるが、法第十三条の「就業規則」には、常時10人以上の労働者を使用する使用者以外の使用者が作成する労働基準法第八十九条では作成が義務付けられていない就業規則も含まれるものです。
・法第十三条の「法令」とは、強行法規としての性質を有する法律、政令及び省令をいうものです。なお、罰則を伴う法令であるか否かは問わないもので、労働基準法以外の法令も含むものです。
・法第十三条の「労働協約」とは、労働組合法(昭和24年法律第174号)第十四条にいう「労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する」合意で、「書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印したもの」をいうものです。
また、法第十三条の「労働協約に反する場合」とは、就業規則の内容が労働協約において定められた労働条件その他労働者の待遇に関する基準(規範的部分)に反する場合をいうものです。
・法第十三条の「労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については」とは、事業場の一部の労働者のみが労働組合に加入しており、労働協約の適用が事業場の一部の労働者に限られている場合には、労働協約の適用を受ける労働者(労働組合法第十七条及び第十八条により労働協約が拡張適用される労働者を含む。)に関してのみ、法第十三条が適用されることをいうものです。
2026年06月30日 12:21
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