出来高払制その他の請負制で使用する労働者の保障給
○出来高払制その他の請負制で使用する労働者への保障給労働基準法においては、出来高払制を請負制の一種と位置づけ、その賃金の扱いについて規定しています。
請負制とは、一定の労働の成果又は出来高に対して賃率を定める賃金額決定方法のことをいいます。特に営業職やトラックドライバー、保険募集人など、労働者個人の力量のみで成果を算出でき、また成果が明確に見える職種でよく採用されています。この労働者が行った仕事の量に応じて賃金を支払う出来高払制の賃金は、①仕事の単位量に対する賃金を不当に低く定めて、労働者を過酷な重労働に追いやる。②一定量の仕事につき、その一部に不出来があった場合に、その全部を未完成として、これに対する賃金を支払わず、労働者の生活を困窮に陥れる。等多くの弊害が見られ、劣悪な労働条件の基盤を成すとされていました。
このことから労働基準法では、その第二十七条において、労働者の最低水準の生活を保障すべく、次のように規定しています。
第二十七条:(出来高払制の保障給)出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
この規定によって、使用者に労働時間に応じて一定額の賃金保障を行うことを義務づけているのです。
○労働時間に応じた保障
第二十七条においては、「労働時間に応じ」とあるとおり、使用者は労働時間に応じた保障をしなければなりません。したがって、一時間につきいくらと定める時間給であることを原則とし、労働者の労働時間の長短と無関係に一か月についていくらを保障するようなものは、第二十七条の保障給に則ったものではありません。ただし、月、週その他一定期間について保障給を定める場合であっても、この保障給について基準となる労働時間数(一般的には所定労働時間)が設定され、労働者の実労働時間数がこの基準を上回った場合には、上回った時間数に応じて増額されるようなものは、保障給に則したものとされます。なお、労働者の実労働時間数がこの基準となる労働時間数を下回った場合に、その下回った時間数に応じて減額されないものは、厳密には労働時間に応じているとはいえませんが、減額されないから保障給ではないと否定するのは妥当ではなく、増額措置がとられている限り、保障給とみて差支えないとされています。
以上、労働時間に応じた保障について記載しましたが、「労働者が就業しなかった」場合であっても保障をしなければならないのでしょうか。第二十七条は「労働時間に応じ」とあるとおり、労働者が就業することを前提とした規定ですので、労働者が就業しなかった場合、それが労働者の責によるものであるときは、使用者は賃金支払いの義務はないから、保障給についても当然に支払うことを要しません。通達においても「労働者が労働しなかった場合には本条の保障給の支払い義務はない。」とされています。
なお、「使用者の責に帰すべき事由」によって就業できなかった場合には、第二十六条の休業手当の規定が適用されますので、使用者に保障給の支払義務が生じるのは、労働者が就業したにもかかわらず、材料不足、停電、機械の故障等のため手待ち時間が多く、または、原料粗悪等のため出来高が減少し賃金が低下した場合のように、実収賃金が低下した場合が該当します。では、労働者の非効率が原因で実収賃金が低下した場合はどうなのでしょうか。通達に「本条は労働者の責にもとづかない事由によつて、実収賃金が低下することを防ぐ主旨であるから、労働者に対し、常に通常の実収賃金を余りへだたらない程度の収入が保障されるやうに保障給の額を定めるやうにすること。」とあることから、別見解も存在しますが、労働者自身の勤務態度、能力、作業の遅さ等、労働者の責めに帰すべき事由によって出来高が少なく、実収賃金が減少した場合には、使用者に保障給を支払う義務は生じないと思われます。ただし、労働者の責めに帰すべき事由の存在を客観的に立証することには、困難が伴うものと思われますので、短絡的に労働者の非効率として処理してしまうことには注意が必要です。
○一定の賃金
保障給の額については、条文には「労働時間に応じ一定の賃金」とあるだけで、または、通達において「常に通常の実収賃金と余りへだたらない程度の収入が保障されるように保障給の額を定める」こととされています。
しかしこれは具体的規定ではありませんので、大体の目安として、労働者が就業している場合の規定である本条の保障給は、休業の場合に関して第二十六条が平均賃金の100分の60以上の休業手当の支払いを要求していることから休業手当を下回らないことが妥当であり、また、当然に最低賃金法の定める最低賃金以上でなければならないとされています。
なお、「本条の趣旨は全額請負給に対しての保障給のみならず一部請負給についても基本給を別として、その請負給について保障すべきものであるが、賃金構成からみて固定給の部分が賃金総額中の大半(概ね6割程度以上)を占めている場合には、本条のいわゆる「請負制で使用する」場合に該当しないと解される。」と通達されていることから、出来高給が月給等の固定給と併給されている場合であって、賃金総額のうち固定給の割合が大部分を占め、出来高給の割合が著しく少額(固定給主体+出来高給少額)である場合には請負制には該当しないとされていることから、保障給を定める必要はありません。
罰則
第二十七条の規定に違反して賃金の保障をしない使用者は、労働基準法第百二十条によって30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
「「保障をする」とは、現実に保障給を支払うという意味だけでなく、保障給を定めるという意味をも含むものと解されるから、保障給を定めないというだけでも本条違反が成立すると考えられる。ただし、本条はその定めの形式を問わないから、労働契約その他によって定められていればよく、就業規則に定めのないことが直ちに本条違反となるものではない。」とされています。
2025年10月22日 11:27