令和8年8月、9年8月からの高額療養費制度の見直し
○高額療養費とは?高額療養費制度は高額な医療費に伴う経済的負担を軽減する仕組みで、一月に医療機関に支払った額が定められた上限額を超えた場合に、上限を超えて支払った額を払い戻す健康保険法第百十五条に規定されている制度です。
第百十五条(高額療養費) 療養の給付について支払われた一部負担金の額又は療養(食事療養及び生活療養を除く。次項において同じ。)に要した費用の額からその療養に要した費用につき保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費として支給される額に相当する額を控除した額(次条第一項において「一部負担金等の額」という。)が著しく高額であるときは、その療養の給付又はその保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費の支給を受けた者に対し、高額療養費を支給する。
2 高額療養費の支給要件、支給額その他高額療養費の支給に関して必要な事項は、療養に必要な費用の負担の家計に与える影響及び療養に要した費用の額を考慮して、政令*1で定める。
今回の改正は、この第二項の「家計」の後に「、とりわけ長期にわたって継続的に療養を受ける者の家計」が加えられ、改正法として令和8年8月1日に施行されることになっています。
この改正は、近年の高齢化、医療の高度化、高額医薬品の開発等医療費が増大する要因が多々ある中において、医療費の伸びに対応した制度の改革は避けることのできない課題となっているものの、高額な医療を必要とする状態になった場合には、高額療養費は重要なセーフティネット機能を果たすものであることを考慮すると、将来に亘って維持する必要があり、また低所得者や長期の療養を要する制度利用者の経済的負担に配慮したものでなければならないという考えを背景に行われるものです。特に改革の検討に当たっては、患者団体など制度の当事者やその意見を伝える立場の委員の参画があったことから長期療養者への影響を適切に考慮し、十分に配慮することが重視され、「、とりわけ長期にわたって継続的に療養を受ける者の家計」の文言が追加されたものです。
*1:健康保険法第百十五条第二項の政令は、健康保険法施行令を指します。施行令中高額療養費については、第四十一条から第四十三条に規定されていますが、かなりの長文であるため、掲載は割愛します。この長文を読解するのは困難を伴うことから、厚生労働省は実務者向けに整理した一覧表を作成していますので、以下に掲載します。
※高額療養費自己負担限度額早見表(令和8年8月見直し前)を参照(厚生労働省「高額療養費制度に関する参考資料」)
○令和8年8月から変更を予定している高額療養費制度の内容
①低所得者の負担に配慮しつつ、一人当たりの医療費の伸びに応じて月額負担上限額を見直しています。
月単位の上限額の計算式の金額を変更していますが、計算結果が大きく増額することがないように配慮した見直しとなっているということです。
②長期療養者への配慮の観点から、「多数回該当」*2の金額を維持するとともに、長期にわたり治療を継続している人が不安に感じる「将来の医療費負担」に見通しを立てやすくなるよう、新たに年単位の上限額(年間上限)を設けています。
多数回該当の金額が据え置きとなっていることから、長期療養者の影響への配慮を窺うことができます。また、年単位の上限額が新設されていて、年間の医療費負担を計画的に見通すことができる仕組みが導入されています。
*2:過去12か月以内に3回以上、上限に達した場合は、4回目から「多数回」該当となり、上限額が下がる仕組み
※高額療養費自己負担限度額早見表(令和8年8月~令和9年7月)を参照(厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」)
○令和9年8月から変更を予定している高額療養費制度の内容
①応能負担という観点に基づき、所得区分が細分化されます。
従来の所得区分がさらに3段階細分化され、旧同区分内の上位所得者には相応の負担増となっています。
令和8年の①とともに制度の持続可能性を意図した見直しといえるでしょう。
②低所得者への配慮の観点から、「年収200万円未満の課税世帯」の多数回該当の金額が引き下げられます。
年収区分がさらに下方へ3段階細分化され、年収200万円未満の多数回該当の金額が44,400円⇒34,500円で△9,900円となり、低所得者の負担が軽減されます。それとともに年収200万円以上370万円未満の人には相応の負担増となっています。
※高額療養費自己負担限度額早見表(令和9年8月~)を参照(厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」)
○まとめ
高額療養費制度は、高齢化、医療の高度化、高額薬剤の開発等によって、医療費の増加が見込まれる昨今において、その持続可能性を図るという観点から負担増の見直しを行わなければならない情勢と言えます。しかし一方で、高額療養費制度は社会のセーフティネットを支える重要な柱であることも否定することはできません。
上記のような観点から、高額療養費制度を将来的に維持するという視点で国は様々な見直しを検討し、実施するようです。ただし、その検討の根底にあるのは、低所得者や長期療養者への配慮です。制度の持続可能性だけを眼中にして、弱者への配慮を欠いては社会保障制度が成り立たないことから、応能負担という観点で負担増を図りながらも、弱者への負担増は極力抑制するという構造を執ることで苦心しながらも見直しを決定したように思います。今回は、その内容について概要を記載しましたが、改正が段階的に行われるため、最後に全体像を捉えやすいように、段階的比較表を掲示します。ご参照ください。
※高額療養費制度の段階的改正比較表(厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」)
2026年07月10日 16:05