令和7年成立「年金制度改正法」主な改正点①~被用者保険の適用拡大~
令和7年5月16日「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」(年金制度改正法)が国会提出され、6月13日に成立しました。この法律は、社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化を図る観点から、働き方や男女の差等に中立的で、ライフスタイルや家族構成の多様化を踏まえた年金制度を構築するとともに、所得再配分の強化や私的年金制度の拡充等により、高齢期における生活の安定を図るための公的年金制度の見直しが行われています。
主な改正内容の一つである「被用者保険の適用拡大」について記載します。
被用者保険の適用拡大のポイントは3点です。
まず第一に短時間労働者の加入要件の緩和です。正社員の社会保険への加入は従来から義務となっていましたが、短時間労働者については一定の要件に該当する場合に加入とされていました。この短時間労働者の加入要件について、2016年10月から一定の要件を満たさない場合であっても①被保険者数が常時501人以上の事業所に勤務していること、②週の所定労働時間が20時間以上あること、③雇用期間が1年以上(後に2か月超に改正)見込まれること、④賃金月額が88000円以上あること、⑤学生(昼間)でないことの要件に該当した場合は加入となることとされました。そして①の事業所の被保険者数要件(企業規模要件)は、2022年10月:101人以上、2024年10月:51人以上と徐々に減少となり、加入対象者の幅が拡大され、現行制度では被保険者数51人以上の事業所とされています。
今回の改正では、この企業規模要件がさらに段階的に縮小され、最終的には撤廃となるというものです。併せて④の賃金要件についても撤廃されます。①の縮小・撤廃の時期については、2027年10月:36人以上、2029年10月:21人以上、2032年10月:11人以上、2035年10月:10人以下(被保険者数要件なし)と10年かけて撤廃されるスケジュールとなっています。②の撤廃は全国の最低賃金の引上げの状況を見極めて法律の公布から3年以内とされています。
これら短時間労働者の社会保険への加入要件の緩和によって、これまでよりも多くの短時間労働者が社会保険へ加入することになります。
第二に個人事業所の適用対象の拡大が予定されています。
現行制度では、法人の事業所で常時従業員を使用するものは社会保険の適用事業所として法律上社会保険に必ず加入する事業所ですが、個人事業所の場合は、常時5人以上の従業員を使用する法定の17業種*1が適用事業所であり、常時5人未満の従業員を使用するもの及び法定17業種以外の事業所は適用事業所ではなく、法律上必ず加入する必要はない事業所(任意包括適用制度あり)です。
今回の改正では、法定17業種に限らず、常時5人以上の従業員を使用する全業種の事業所を適用対象とするよう拡大されます。
ただし、2029年10月の施行時点で既に存在している事業所は当分の間適用しないとの経過措置が設けられています。
以上、被用者保険の適用拡大に関する改正によって、新たに社会保険への加入となる短時間労働者及び事業主は保険料の追加負担が発生することになります。
そして第三のポイントとして挙げられるのがその負担軽減措置です。
その措置とは、適用拡大の対象となる比較的小規模な企業で働く短時間労働者*2に対し、 社会保険料による手取り減少の緩和、就業調整を減らし、被用者保険 の持続可能性の向上につなげる観点から、3年間、保険料負担を国の 定める割合*3に軽減できる特例的・時限的な経過措置を実施することです。 具体的には、社会保険料は労使折半が原則ですが、この措置の利用を希望する事業主は、法令で定めた負担割合により労使折半を超えて会社が保険料を多く支払い、その分労働者負担分を少なくするというものです。
なおその際、事業主が労使折半を超えて追加負担した保険料相当額を国が支援するという事業主への措置も用意されています。
このような負担軽減措置が実際に負担を被ることになる特に中小事業主や短時間労働者の負担をどれだけ緩和する効果があるのかは定かではありませんが、来るべき適用拡大の波を乗り切るための事前準備を進めておくことが重要です。
*1:①物の製造、②土木・建設、③鉱物採掘、④電気、⑤運送、⑥貨物積おろし、⑦焼却・清掃、⑧物の販売、⑨金融・保険、⑩保管・賃貸、⑪媒介周旋、⑫集金、⑬教育・研究、⑭医療、⑮通信・報道、⑯社会福祉、⑰弁護士・税理士・社会保険労務士等の法律・会計事務等を取り扱う士業
*2:対象者は、従業員50人以下の企業などで勤務し、企業規模の見直しなどにより新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者であって、標準報酬月額が126千円以下である者
*3:・標準報酬月額88千円 労働者負担割合50%→25%
・標準報酬月額98千円 労働者負担割合50%→30%
・標準報酬月額104千円 労働者負担割合50%→36%
・標準報酬月額110千円 労働者負担割合50%→41%
・標準報酬月額118千円 労働者負担割合50%→45%
・標準報酬月額126千円 労働者負担割合50%→48%
・標準報酬月額134千円~ 労働者負担割合50%→50%
(3年目は軽減措置を半減)
2025年07月09日 10:46